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シネマ365日

2017年4月10日

特集「菜の花の匂うベストコレクション」⑩ 
ヤング・アダルト・ニューヨーク(2016年 社会派映画)

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監督 ノア・バームバック

出演 ベン・スティラー/ナオミ・ワッツ/アマンダ・サイフリッド/アダム・ドライバー

シネマ365日 No.2081

かわいそうなジョシュ

菜の花の匂うベストコレクション

やっぱりあるのね。監督も俳優もピカイチなのにひとつも感動できない映画って。悪くない映画だとは思うが、ここぞ、というところでひとつも盛り上がらない、おとなしく行儀よく、それでいて苦々しく終わってしまうのよ▼ブルックリンで暮らすジョシュ(ベン・スティラー)はドキュメンタリー映画の監督、妻コーネリア(ナオミ・ワッツ)は映画プロデューサーだ。子供はいない。コーネリアが二度流産して、もう子供は作らないと決めた。同年代の友人夫婦は嬉々として乳飲み子の世話をし、笑顔満面、愛と平和の家庭を体現している。子供のいる友人たちとは共通の話題もなく自然と距離ができた。ジョシュは才能があるのかないのか。妻の父は有名な映画監督なのに、義父の力は借りないと突っ張っているが、一向にうだつは上がらない。いま手がけている映画は資金難で中断、助成金が出れば完成できるらしいが、誰も信用しない。夫の映画の進展がないから、コーネリアは図らずも、父の映画の手伝いばかりすることになる。ジョシュはアートスクールの講師を兼業している。聴講生に監督志望のジェイミー(アダム・ドラーバー)と妻ダービー(アマンダ・サイフリッド)がいた。20代の夫婦の感性は、ジョシュとコーネリアにとっては刺激的だった。招待された彼らの家には、LPレコードにレトロな家具、センスのいい手作り工芸品、今はカルトとなった古い映画。すっかり「若さ」にはまり込んだジョシュは、帽子を買い、自転車を乗り回し、ジムに行き、奇妙なヒップホップを踊り、交流を深め、若返ってはしゃぎだしたのだけど、どこか痛々しいのだ▼このへんで読めてしまうのよ。アダルト夫婦の着地点が。若い夫婦の出現によってけん怠気味だった中年組は、一時的に活性化したものの、現実から目をそらしただけ。目の前にある問題は一つも解決していなかった。つまり、ジョシュは相変わらず生活力も才能もない、売れないディレクターで、社会が求めていない作品ばかり作る、感度の鈍い映画人だった。クリエイターとしては致命傷だ。妻は夫を支えるが失望は隠せない。それに比べジェイミーの野心満々の取り組みは眩しいほどだ。行き詰ったジョシュは子供を作ろうと言い出す。なんだよ、そのご都合主義的な子作りは。案の定コーネリアは大反対。男はいいわよ、でも不妊治療のしんどさをあなたは代わってやってくれるとでもいうの? 夫婦は険悪になる▼ここで、まるで出番を待っていたかのようにジェイミーの正体が暴露される。ジョシュを映画人として尊敬し、親しい仲にも礼儀正しく接してきた、気持ちのいい青年だったジェイミーが、ある日、ジョシュの義父にジョシュにも無断でアプローチする。同時にコーネリアはダービーから、ジェイミーには計略がありすべて計算づくで、ジョシュと、特にコーネリアに近づいたことを聞く。ここにきてやっとアマンダがまともな女優の顔になります。それまで何をしに出ているのだろうという、ホントくだらない存在を唯々諾々と演じさせられています。一言でいうとジョシュはうまうまとジェイミーに引っかかり、ジェイミーはずる賢い本性を現し、おだてに乗って、すっかり機嫌よくさせた中年夫婦を手のひらで踊らせ、着々と目的を果たす。アダム・ドライバーの嫌味たっぷりの青年像が抜群にいいですね▼かわいそうなのはジョシュで、結局彼は負け犬だったということになる。僕の時代は終わったのだ、と言うけど、もともと彼の時代なんかなかった。この甘さが命取りだったことに、ことここに至っても気がつかないのだ。でもいいのだ、僕には君がいる…君というのはコーネリアのことよ。妻がいるから自分の人生は失敗じゃないってことか。だったら初めから正面から男らしく、成功した義父に助けを求めろ。天啓のようにジョシュは「人生は毎日が充実していなくてもいいのだ」と悟るのだが、悲劇的な空回りこそすれ、真面目で誠実なジョシュという男性に、劇中もう少しいい目をさせてやったらどうなの。こういう苦々しいエンドが、ウッディ・アレンの後継者と言われる所以なのね、この監督。

 

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