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シネマ365日

2017年4月21日

特集「最高のビッチ2」⑨ 
黒い十人の女(上)(1961年 コメディ映画)

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監督 市川崑

出演 山本富士子/岸恵子/岸田今日子/中村玉緒/宮城まり子/船越英二

シネマ365日 No.2092

女たちの殺し

最高のビッチ

山本富士子を初めて見たのはテレビだった。五社協定で干され、映画からテレビ、舞台に軸足を移し、旺盛な活動に入っていた。だから彼女の映画は本作が初めてだ。スクリーンに映った山本富士子とは、大輪の牡丹のような女優だった。彼女はこのとき30歳だった。信じられないが「近世名勝負花の講道館」でデビューしてから8年の間に、80数本の映画に出演しているのだ。こき使われていたというべきか、がむしゃらに仕事していたというべきか、どっちにしてもこんな過密勤務では、フリーにもなりたくなる。マリリン・モンローが独立したのも同じ状態だった。本作には当時の日本映画界・演劇界を代表する粒ぞろいの女優が演技を競っている。岸田今日子のよく通る天鵞絨のようなアルトの声も、中村玉緒の初々しさも懐かしい。本作の主人公は、どっちかというと岸恵子だ。和田夏十のオリジナル脚本で、夫の市川崑がメガホンを取った。映画の締めとして、岸にこんなセリフを言わせている▼彼女が「あなた」といっているのは、テレビ局のプロデューサー、風松吉(船越英二)のことだ。名のごとく風のようにとらえどころのない男で、美人妻の双葉(山本富士子)がいながら十人の愛人を持っている。岸に言わせると風松吉は「影のない男」すなわち実態のない虚像なのだ。彼に次々女が出来て、誰一人彼のことを悪く言わず、女房と離婚して結婚してくれとか、自分だけを愛してくれとか頼み込む。松吉は「君、何か勘違いしていないかい?俺は女房もいるし、そんな力のある男じゃないよ」と大真面目に言う。妻は妻で、愛人は公認である。とにかく優しい、というよりホドのいい男だから女はほだされてしまう。女がまた揃って生活力のある、しっかり者で、松吉みたいな頼りない男がどうしても憎めない。船越英二がナマコみたいな男の、軟体動物の感触を生ぬるい体温まで感じさせて絶品だ▼少し長いが、岸恵子と船越英二のやり取りを紹介しよう。折り目筋目をきっちりつけねば気がすまない、和田夏十らしい構成なのだ。「現代の社会機構の中に巻き込まれると、誰でもあなたのように影のない人になるのよ。忙しく飛び回って事務的な処理はたいへんうまくなるのだけど、心と心を触れ合わせることができない生き物になってしまう。女が男に求めるものはもうないのよ、あなたの中には。だから抹殺されたの」「そうなら僕の罪じゃないだろう。社会機構が悪いのだろう。僕は犠牲者じゃないか」「社会機構を殺すわけにいかないでしょ。テレビ塔を殺すわけにいかないでしょ。ねえ、泣かないで、とてもあなたを愛している。みんなからあなたを引っさらってきたのも、愛しているからよ」。説明を加えると、風が愛人十人もこしらえ、自分をなおざりにするのがけしからん、こんな男は抹殺してしまおうと十人の女達は合議し、妻の双葉が執行人になって夫を撃ち殺した、もちろん狂言である、しかし夫婦の芝居に騙された女たちの一人、三輪子は悲しんで自殺した。風に愛想をつかした妻は風と離婚、舞台女優の市子(岸恵子)が、ならば風を引き取ると言って舞台の仕事も辞め、風にもテレビ局をやめさせ、東京砂漠の孤島のような一軒家に引きこもったのだ。口あんぐりするほど男に都合がいい。

 

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