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特集「頑張るドイツ映画と女性監督」

2017年4月27日

特集「頑張るドイツ映画と女性監督」⑤ 
チェイス・ダウン 裏切りの銃弾(2015年 日本未公開)

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監督 ニコライ・ローデ

出演 ペーター・ローマイヤー

シネマ365日 No.2098

現場から去った少年 

ドイツ女性監督

タイトルだけ見るとハリウッド映画みたいだけど、ガンガンのドイツ映画です。ペーター・ローマイヤーが出演したいい映画に「ハンネス、列車の旅」がありました。ドイツのサッカー・チームを取り上げた「ベルンの奇蹟」のほうが有名かもしれないけど、本作の主人公であるファーベル警部と「ハンネス」の主人公が似ている気がするし、どっちもペーター・ローマイヤーでないとかもせなかった人物像だと思います。ではどんな主人公か。この映画は「ドイツ発クライム・サスペンスの傑作」と言ってもいいくらいなのですが、作り込みが緻密なのに全然派手じゃないのね。これじゃ未公開になったのも無理ないかな〜と思うほど、アピールしにくいのです。ペーター・ローマイヤーという人が、どっちかというと銀行員か大学教授のような雰囲気で、この人を見たとき、思わずトーマス・マンが「作家は銀行員のごとくあるのがいい」と日記か対談かで言っていたのを思い出したわ。作家とはコツコツと書き、コツコツと作品を作りだすのであって、才能とかひらめきとかいう、ヤクザなものに頼るべきではない、ま、そう解釈したのですが、ファーベル警部ってまさにそのタイプでした▼ストーリーはかなり立て込んでいます。現在・過去・現在と時間軸が入れ替わり、当時の事件と現在がオーバーラップして、その都度登場人物の年齢が交錯します。オープニングは人気歌手が頭皮をはがれた惨殺死体で発見されたという、センセーショナルな「ハウザー事件」ですが、猟奇殺人にありがちな扇情的な煽り方がありません。ベテラン刑事ファーベルが事件を追う。深夜、彼の元に警察から電話が入る。ハンブルグ大学の遺伝子研究の教授が緊迫した様子で、ハウザー事件の担当刑事と至急連絡を取りたいという。ファーベルは教授の家に急行した。そこにはすでに頭皮を剥がされた死体が横たわっていた。残忍な手口はハウザー事件と一致した。犯人は同一犯だ、ファーベルは犯人の「これはミッションだ」というメッセージを受け取る。現場に必ず赤毛が残されているのも同じだった。現場に何一つ手がかりを残さない鮮やかなやり口だ▼警部には16歳の娘ガービがいる。警部と妻はどっちも警官だ。別居中であり、パパは娘のしつけに厳しい。「少しは子供を信頼したら?」というママの忠告も、パパは馬の耳に念仏。うるさいパパから逃げて「ママの家に行きたい」と娘。「ママは他の男と旅行中だ。この家でパパと暮らすのだ」と一蹴する。カチンカチンのゲルマン男だ。この娘が誘拐され、警部の捜査は妨害される、というのがよくある筋書きだが、そんな寄り道はない。犯人像の解明とそのプロセスに警部とそのチームは全力を挙げる。88分という短い尺が紆余曲折に富んでいる。ファーベルは歌手と遺伝子学者の接点を追う。彼らは1980年代、ともに左翼活動を展開していた仲間同士だった。80年代の過激派テロ事件の報道写真を洗い出した警部は、二人がデモに参加して写真の中に、もう一人の活動家が写っているのを見る。彼はタレコミにより、警察隊に射殺されたのだ。歌手と遺伝子学者だけではなかった。当時同じグループにいたメンバーは、今やドイツの政財界の重鎮とも言える重い地位についていた。一体何があった…▼犯行は続いた。グループのメンバーが次々殺されていった。そうか。目的は復讐だったのだ。誰が、誰に復讐するのか。1980年代から今日まで、巧みに一市民に紛れ込んで機会を狙い、犯行に及んで頭皮を剥いでいく執念深さは異常である。ドイツ映画では、スーパーヒーローやヒロインはまず登場しません。そういうスポットライトの当て方が嫌いなのだと思います。ローマ時代から国境の戦場であった大河ライン沿岸や、国土の広大な面積を占めるシュバルツバルト(黒森)を目の前にして人となると、一攫千金とか、生ぬるい幸福感とかは、災いでこそあれ人に幸をもたらすものではないと思えるのかもしれません。話が逸脱した。ファーベル警部チームの地を這うような捜査はとうとう、30年前、警官隊に射殺されたテロ組織のリーダーに、息子が一人いたことを突き止めます。彼は今どこに。犯人が殺人前に赤いスプレーを吹き付ける殺しの合図はなんのため。まるで幻のように、いたいけな少年がリュックを背負い、射撃戦の現場から去る、小さな背中が挿入されます。現場から去った子供が一人いたのだ…。やたらとドラマチックではありませんが、水も漏れない緊密な構成は最後までタルミを見せません。見て損のないドイツ映画の傑作です。

 

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