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特集「頑張るドイツ映画と女性監督」

2017年4月29日

特集「頑張るドイツ映画と女性監督」⑦ 
犯罪「幸運」(2012年 日本未公開)

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監督 ドリス・デリエ

出演 アルバ・ロルヴァケル/ヴィンツェン・キーファー

シネマ365日 No.2100

ダンケ

ドイツ女性監督

「MON-ZEN」などの映画を日本で撮っているドリス・デリエ監督の作品。とても丁寧に作り込まれた映画が、邦題のために意味不明になっています。のどかなマケドニアの小村から始まるこの映画、ラストでやっと犯罪と幸運が結びつきます。マケドニアの内戦で両親は惨殺、自分はレイプされ死ぬにも死ねず、生まれて初めて出てきた大都会ベルリンで、イレーヌ(アルバ・ロルヴァ)は娼婦になって生活する。ある日バイロンと名付けた黒いラブラドルを連れ、路上生活する青年カッレ(ヴィンツェン・キーファー)を知る。彼は道行く人に「小銭ありませんか。持っていたら分けてください」と声をかけ、レストランの食べ残しや飲み残しをバイロンと分けあって生きている。顔見知りになったイレーヌは、赤い毛布をカッレにプレゼントした。話かけてきたカッレは、公園でイレーヌのブランコを押しながら「ブッツディッヒ」といった。「無重力さ。全てがとまる、いい瞬間のことだ」▼イレーヌはビザのない不法滞在だ。警察に知れたら強制送還になる。イレーヌはカッレの過去や家族のことを何も聞かないし、自分のことも話さない。一緒に暮らし始めた。イレーヌはレイプのPTSD(心的外傷後ストレス)に苦しみ、自分の太腿に針を刺す自傷行為を繰り返す。イレーヌはカッレとのセックスのとき「好きな人とは初めてなの」といい、カッレは童貞だった。イレーヌの部屋は客用の部屋でもあるから、客が来るときカッレは出て行く。彼は負い目を感じ「出て行けと俺にいえよ、掴み出せよ」とくってかかる。イレーヌは「絶対に言わない、あなたを追い出さない」とやさしく抱きしめる。やっとカッレは仕事を見つけた。新聞配りだ。サイテーの仕事だとくさって帰ってきたカッレにイレーヌ「わたしだってサイテーの仕事よ。でもやめない。毎日働いている」という▼事故でバイロンが死んだ。カッレは獣医になるのが夢だった。イレーヌは服を縫うのが好きだ。店頭でミシンの特売を見たカッレは一番安いミシンを毎週20ユーロの払いで買うことにする。帰ってきたら部屋に男の死体があった。イレーヌはいない。カッレはイレーヌが殺したと思い込む。男は行為の最中、発作を起こして死んだのだけど。ビザを持っていないイレーヌは警察に行けなかった。カッレは無謀にも肥満した男の体をバスルームで分断し、袋詰めにしてバイロンを埋めた公園に運ぶ。一部は新聞配達用のリヤカーに、一部はリュックに入れ背負って。男の手がリュックからはみ出す。カッレは血が嫌いで肉屋の見習いも続けられなかった、食べ物はヴェジタリアン。その彼が血まみれになって死体を切り離す。純愛とは一途にしてかくも幼い犯罪という形をとるのだ▼イレーヌはひょんなことで知り合った弁護士に弁護を依頼する。「わたしを助けてくれなくていいの。カッレを助けて。わたしの恋人なの。わたしのために彼はあんなことをしたの。男の人は死んでいたのに」この弁護士は「有罪か無罪かは関係ない、弁護士はただ依頼人の有利を計らうのが仕事だ」と考える人物だった。彼は事情を聞いて遺体を発掘した。死因は心筋梗塞と証明された。検事はしかし「死体損壊と死者の陵辱で起訴します」「しかし大事なのは動機では。彼は恋人を助けようとしたのです。血が苦手で精肉店もやめた男です。全ては愛のためです」。女性検事は訊いた「じゃ、あなたもやる?」▼帰宅した夫に弁護士の妻は同じことを訊く。黙っている夫に「愛の力は大きいのね」「ああ、失う力もね」。弁護士は諦めず検事に迫った。「判例を見つけました。死体損壊が目的でなく、愛ゆえの損壊だったのです」「愛ゆえ?」検事は冷たく訊き返す。「純愛なのですよ。これでどうか不起訴に…」「いいわ。でも女性は不法滞在よ。国外退去よ」「結婚すれば合法です」「なるほど。いいわ。でも愛は冷めますよ」「人によりますよ」「冷めるわ」。この二人が面白いのです。検事は、もともと世間知らずの若い男女の勘違いから起こった、大した事件じゃなし、不起訴でもいいと内心思っている。でも大汗かいてふたりを助けようとしている弁護士を、からかってやれ、と思ったのかもしれない。「花を盗んだことがある」という検事に「あなたは?」と訊かれ、弁護士は「盗みはしたことがない」と胸を張って答える。でも検事はなぜか哀れっぽく彼を見るのだ。その帰り、弁護士は花壇の花を盗み妻に持って帰る。食卓に飾られた花に妻は「ダンケ(ありがとう)」▼ラスト。イレーヌは故郷で羊飼いをしている。送還されたのかもしれない。カッレはいない。でもどこかから現れる気がする。イレーヌはいっていた。眠りにつくときカッレの手を握り「夢のなかでも離れていたくないの」。孤独で辛い身の上で、やっと出会ったブッツディッヒ。腹上死した男性は気の毒というしかないが、彼のおかげで「犯罪」と「幸運」は合致したのだ。弁護士が別れぎわ、検事にいった言葉もこれだった。「ダンケ」

 

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