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特集「頑張るドイツ映画と女性監督」

2017年4月30日

特集「頑張るドイツ映画と女性監督」⑧ 
名もなきアフリカの地で(2003年 事実に基づく映画)

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監督 カロリーヌ・リンク

出演 ユリアーネ・ケーラー/レア・クルカ

シネマ365日 No.2101

名もなき人間の土地 

ドイツ女性監督

原作はシュテファニー・ツヴァイクの自伝です。ナチの迫害から逃れケニアのロンガイに移住した、ユダヤ人弁護士ヴァルターは、農場に妻子を呼び寄せる。妻イエッテル(ユリアーネ・ケーラー)は大戦勃発前夜の危機がまだ実感としてわかっておらず、標高3000メートル、アフリカの僻地オル・ジョロに住む不自由な暮らしにたちまちネをあげる。一家の料理人オウアは忠実な心やさしく聡明な黒人だが、イエッテルは横柄な態度で接する。一人娘レギーナ(カロリーネ・エケルツ)はオウアが大好きだ。母親は黒人たちにドイツ語を覚えさせようとするが、レギーナは逆だ。喜んで地元の言葉を覚え黒人の子供たちと遊び、野良犬を拾って世話する。「食べ物はトウモロコシに卵だけ。故郷に帰る!」と怒る妻に「命があるだけ有難いと思え。間一髪逃げられたのだ。ナチはユダヤ人を人間と思っていない」夫は怒鳴る。夫婦仲は険悪になる▼戦争勃発。ドイツ国籍のヴァルターはイギリス軍に拘束され、妻と娘は収容所に。別れる日オウアはレギーナにいう「泣かないで。どこにいようと必ず探してついていきます」。その言葉通り、彼はオル・ジョロからロンガイまで何百キロもある距離をルムラー(犬)を連れてたどり着くのである。ヴァルターの拘束が解けない。ドイツ語の話せる軍曹が「力になれるかも」といってイエッテルに近づく。イエッテルはためらわず彼に体を与え、夫を釈放させる。三人とオウアは再び農場に戻った。レギーナは学齢となり、イギリス人の学校に入学するが、ここでもユダヤ人はよそ者だ。でもレギーナはへこたれない。休暇になって家に帰るレギーナを校長は自室に呼び「どうして君はそう勉強ができるのかね。一番にならなければ気がすまないのか。ケニアは好きかね」と訊く。「アフリカとオウアが大好きです。彼はヤルオ族、農場の人たちはポコット族、わたしたちはドイツ国籍、でもナチじゃありません」ハキハキ答えるレギーナを校長は笑顔で眺め「きっと君の気にいるよ」と、ディケンズの「子供たちの物語」を贈った▼イギリス軍基地に仕事が見つかり、ヴァルターはナイロビに引っ越そうという。妻は「いや」だという。「オウアとここに残るわ」。彼女は農場に残り、黒人たちを管理し、休暇に娘が帰省するまで、オウアと二人で家を守るのだ。仕事を仕切るイエッテルにオウアが「あなたを尊敬します」「わたしもよ、オウア、あなたを尊敬するわ」。アフリカに来ていちばん変わったのはイエッテルだ。黒人嫌い、アフリカ嫌い、食べ物も風習も嫌い。そのイエッテルがレギーナに「私たちはドイツ国民よ。ドイツの言語や文化で育っている」娘は「ユダヤ人は普通と違うのね」「誰もが同じだと思うのは愚かなことなの。違いにこそ価値があるとアフリカで学んだわ。違いは素晴らしいのよ。賢い人は違いを尊重するわ」。母と娘の価値観がぴったり合った。でもアフリカと、最愛のオウアと別れる日が来た。戦争が終わったのだ▼ヴァルターに、フランクフルト裁判所の判事の口が決まった。帰らないとイエッテルはいう。「あんな国に未来はないわ」「僕は弁護士の仕事が好きだ」「ナチを忘れたの。両親は殺されたのよ」「ケニアは我々の祖国じゃない」。考えさせられた。ドイツを祖国として愛してきた人々を、ユダヤ人という理由で殺した事実を。彼らはドイツ国籍を持ち、ドイツの文化を、音楽を、言葉を愛し、同じことを子供たちに受け継がせてきたのに。オウアは夜明け前、「太陽が昇る前に発つ」準備をしていた。彼は一家がドイツに帰ることを知っていたのだ。名残を惜しむヴァルターにいう「旅立つときが来たら男はいかなくては」「せめてレギーナに別れをいってくれ」「彼女はわかってくれます。私たちと同じ目で見て、同じ心で感じるから」。レギーナはそばに来ていた。オウアにいう「初めて会ったときのように私を抱き上げて」軽々とレギーナを抱き上げ「あなたは賢い。母上を導くのです」。オウアはルムラーを連れ、夜明けにはまだ暗い道を歩いて行った。一家はドイツに帰った。1947年6月レギーナに弟が生まれマックスと名付けられた。祖父の名前だった▼アフリカの赤い土。神の山ケニア山の頂。トウモロコシ畑を襲うイナゴの大群。レギーナの、黒人のボーイフレンド。ポーランドに移送される、という20語の手紙が最後になった祖父母と叔母。生き抜く力。違いを尊敬できるかできないかに、おそらく人間の価値はあること。学力優秀なレギーナ。「なぜ勉強するのだ」「お金がないからです。父の報酬は6ポンド。ここの学費は5ポンドです」なんて明晰な子だろう。でもこの映画でいちばん好きな人物はオウア。誇り高く愛情深く、どんなときも自分を見失わない。何も欲しがらない。持っていないものは大抵「必要ない」ものなのだ。彼こそがイエッテルの人生観も世界観も変えた「名もなきアフリカ」そのものなのだ。実に地味で目立たない映画が、アカデミー外国語映画賞を取っています。

 

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