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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2017年5月11日

特集 LGBT—映画に見るゲイ211 
イヴ・サンローラン(2014年 ゲイ映画)

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監督 ジャリル・レスペール

出演 ピエール・ニネ/ギョーム・ガリエンヌ

シネマ365日 No.2112

愛した名はイヴ

特集「LGBT—映画に見るゲイ」

才能は代償を伴う、イヴが幸福だったのは、ショーの最後に挨拶するときだけだった、とピエール・ベルジュ(ギョーム・ガリエンヌ)は追想します。彼はイヴ・サンローラン(ピエール・レネ)の運命に寄り添った男。「天才で妄想家。病気を抱え不幸でもあった」イヴを公私にわたって支えました。21歳でクリスチャン・ディオールの後継者に指名されたイヴは、記者会見で「重圧ではないか。今の気持ちは。最初のコレクションの抱負は」などの質問に「悲しみ、不安、喜び、そして誇り。成功しない恐れも感じる。でも最後まで努力します。夜も昼も部屋にこもってデザインします。当然、最善を尽くします」と、修行僧のように答えています。彼は極端に内気で、内気であることを武器に代えた男であり、仕事の虫でした。仕事以外は無能で何もできず、ショーの最前列にだれを招待するかという、最重要な政治的処置にも「決めるのは僕には無理だよ」と頭を抱えた▼これら雑事(イヴにとっての)一切を引き受け、財務を切り盛りし、イヴをデザイナーとしての仕事に打ち込ませたのがピエールでした。イヴ・サンローランという、フランスの国宝とまでいわれた天才に、光に闇はつきものですが、ピエールという存在がなければ、その光も闇も、凡庸なスケールに終わったと思います。ふたりのあいだに愛憎半ばする葛藤はありました。アーティスト独特のエゴイズムはイヴにおいても例外ではなく、デザインできないピエールを「負け犬め、寄生虫め」と罵倒し、ジャック・ド・パシェールというハンサムなモデルに魅了されたときは「ジャックは美しい。優雅だ。体もすばらしい。気品がある。愛している。でも生涯の男は君だ、ピエール」なんてまあ、勝手なこと。ピエールはジャックと直談判してイヴから遠ざけ、セーヌ河岸に男を求めに行ったイヴへの復讐に、モデルと関係し「ぼくがどれほどよかったか、彼女に聞いてみろ」とあけすけに言い、イヴはのたうちまわる▼イヴは兵役についたら、ストレスのあまり精神病院に収容されるような神経です。モードの天才といわれながら、コレクションが迫るたび、プレッシャーから逃れられず、飲めなかった酒、ドラッグに溺れます。ピエールはシャネルからのヘッドハンティングも断り、イヴのそばを離れませんでしたが、年に4回のハードなコレクションに、すべてを手に入れながら酒浸りなるイヴにどうしてほしいのか聞く。「君との時間がほしいだけだ」と答えるイヴを連れ、ピエールは彼の別荘のあるマラケシュに行きます。マラケシュはモロッコ中央部の都市。イヴはアルジェリアのオラン出身です。どこか故郷の風土に似通った土地での休息と安らぎを得て、イヴは息を吹き返す。マラケシュの印象をデザインしたコレクションはマリア・カラスの「遠いところへ」が挿入される、とても印象的なシーンです。コレクション「解放」は社会的な現象を呼び起こしました。イヴの「スモーキング」は、「サンローランは傲慢な意図をもってブルジョワを侮辱した。男に女が挑むように〈スモーキング〉を着る。女は男と平等ではなく、敵になった」と▼イヴは最高のスーパースターだった。ヌードになり、ピエールに言わせると「神経質で華やかで哀れな一族」に属するようになった。身も心も蝕まれたイヴは、2002年1月、最後の力をふりしぼってパリのコレクションを終え引退しました。2008年6月1日の死まで、ほとんど彼が過ごしたのはマラケシュでした。墓はマラケシュのマジョレル庭園にあります。1980年にイヴとピエールはこの庭園を買い取りました。建造物の外壁は、鮮やかなブルー。庭園内の美術館にはイヴが所有していた、北アフリカのテキスタイルや、陶器、ジュエリー、マジョレルの絵画などが展示されています。イヴは、ピエールとともに、デザイナーとしての自分を復活させたマラケシュを愛し、庭園に遺灰を納めました。モロッコの砂漠という土地が、いかにもイヴ・サンローランに似つかわしく思えます。内気な少年は学校で「オカマ、ヘンタイ」といじめられトイレに閉じ込められ、いつもひっそりデザインを描いていた。普通の神経ではとうてい「癒やし」を受け取るような場所ではない、砂漠という過酷な土地に、生涯の最後の安寧を感じたのがイヴ・サンローランでした。彼の墓はマラケシュの風に吹かれている。名声にも栄誉にも冨にも、収束されなかった、というよりそれらの俗事に取り込まれずに済んだのは、守護天使ピエールがいたからでしょう。映画ではギョーム・ガリエンヌが演じます。「不機嫌なママにメルシイ」で、監督・脚本・主演をやった才人です。イヴのピエール・ニネとともに、モリエールの伝統を引き継ぐフランス最高の国立劇団コメディ・フランセーズに拠点を置いています。

 

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