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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2017年5月15日

特集 LGBT—映画に見るゲイ215 
アグネスと彼の兄弟(2005年 ゲイ映画)

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監督 オスカー・レーラー

出演 マルティン・ヴァイス/モーリッツ・ブライプトロイ/ヘルベルト・クナウプ/カーチャ・リーマン

シネマ365日 No.2116

安らぎのかけら

特集「LGBT—映画に見るゲイ」

とにかく痛い家族なのだ。長男ヴェルナー(ヘルベルト・クナウプ)は次期閣僚入りを期待される政治家、でも家の中では妻ジグネ(カーチャ・リーマン)にガン無視され、息子二人も母親側、長男ラルフは親父でさえ嫉妬するくらい、母親べったりという完全アウェーです。長男から順番に行きます。ヴェルナーは帰宅するなりシェパードの名を呼ぶ。妻は冷たい目。息子もソッポ。ヴェルナーは久しぶりに妻にアプローチするが振り向きもしない。「毎日お下劣な話題ばかり。それでわたしがセクシーな気分になるとでも?」例えばドアを開けっ放しでヴェルナーはトイレする。息子は隠し撮りしてネットで公開する寸前、親父に取り押さえられた。毎回同じソーセージを山のように買い、歯磨きの蓋をしない。「口が臭くて話もできない。あっち行って。一人で休ませて」。息子と部屋に閉じこもっている妻に「5時間もなにをしているのだ!」「嫉妬なの?あなたの息子よ!」ケラケラ笑う息子にヴェルナーの口癖は「母親とつるみやがって。誰が食わせてやっているのだ。出て行け!」▼次男ハンス。「僕は性的異常者です。刑務所にも入った。ポルノの覗き、強姦未遂で捕まった」と依存症セミナーで告白した。図書館司書というお堅い仕事と裏腹に、職場の女子トイレに侵入し、個室の仕切り板に穴を開け、隣に入った女の子を覗いて自慰するのが日常の習慣。ある日とうとうバレ、職を辞し、以前に知り合ったポルノスタジオに転がり込んで本番要員になる。ハンスには猛烈な父親コンプレックスがある。「12歳までおネショをしていた僕を、父は息子の唯一の取り柄だと言いふらした」。三男アグネスは性転換して「妹」になった。男と同棲しているが、その男は一つも優しくなく、アグネスが食事を作らない、家事をしないと怒鳴り、アグネスを追い出した。アグネスはクラブのダンサーだ。行くあてもなく酒場にいたら、女が声をかけた。初老と言っていい。アグネスは女のやさしいものいいに微笑んだ。女はアグネスが男だとわかっている。アグネスも女がゲイだと知っている。理由などどうでもいい、やさしくしあいたいときが人にはある。「行くあてがないの」と口を開いたアグネスに「わたしのところに来ればいい」と女は受け入れた▼ハンスは弟思いだ。アグネスがああなったのは子供時代、父親にイタズラされたからだと信じている。ヴェルナーは「親父がそんなことをしていたら俺にもわかったはずだ。お前の妄想だ。お前は何でも人のせいにするのだ」「兄さんこそ、親父のイチモツにじゃれついていただろ」。三人の息子は父親に会いに行く。彼らの共通項は父親が同じというそこだけだ。ハンスはアグネスが跪いて父親の股間に顔を埋めているのを遠目から目撃する。実はアグネスがうつむいてゴミか何かをとってやっていただけなのだけど。ハンスは父親が許せなくなる。そしてアグネスに言うのだ。「悪夢を終わらせてやるからな」。アグネスは何の意味かわからなかった。ハンスは父親を撃ち殺したのだ。同じスタジオで仲良くなった女の子ロクシーがいた。ハンスは打ち明ける「親父を殺してしまった」。ロクシーは即座に言う「一緒に逃げましょう!」こういう女性がいてくれたことは喜ぶべきことなのだろう。ハンスは兄弟たちに別れを告げに行く。「お別れに来た。実は恋人を見つけたンだ。国を出て彼女と一緒になる」▼アグネスは重い病気だった。ニューヨークの元彼ヘンリーが来演することを知った。アグネスはヘンリーと恋人同士だった時代に作ったウェディングドレスを着て会場に会いに行く。女友達の家にヘンリーとその仲間を連れてきて歓待した。アグネスはそのすぐ後、息をひきとる。ヴェルナーは息子を追い出したものの、ジグネまで一緒に出て行ってしまったのでしょげかえっていた。ジグネが電話してきた。息子が帰らない、そっちにいないか。来るはずないと親父は思うが、心配だった。コンサートの追っかけをしていて家に帰らなかったという息子をジグネは張りとばす。君がいなくちゃやっていけない、と泣きついたのは夫の方だ。「しっかりしてよ、もう」と妻。「ジグネ、ジグネ」大声で呼んでいるヴェルナーの声が庭まで聞こえる。走ってきて庭の手入れをしている妻に「ここにいたのか。残るのか」と息を切らして訊く。ジグネは剪定しながら「残りますとも」と答える▼癒しもない。教訓もない。励ましも勇気もない。弱くて切なくて、でも何かにしがみついて生きていけば、いつか安らぎのかけらくらいに出会うかもしれない、それが人間かもしれないと納得させてくれる。

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