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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2017年5月16日

特集 LGBT—映画に見るゲイ216 
キカ(1994年 ゲイ映画)

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監督 ペドロ・アルモドバル

出演 ヴェロニカ・フォルケ/ピーター・コヨーテ/ビクトリア・アブリル/ロッシ・デ・パルマ

シネマ365日 No.2117

忘れるのが愛よ

特集「LGBT—映画に見るゲイ」

混沌と混乱こそがアルモドバル映画の真髄。スペイン社会が決してこの映画みたいに奔放、豪快、物悲しくて、でも痛快というわけではないでしょうが、アルモドバルが手を染めて描くとそうなる。不倫なんて生易しいものじゃない、殺しである、連続殺人である。流血である、近親相姦である。騙しに殺しに裏切りに倒錯。それがまあ、あっけらかんと映され、会話され、結論があるようなないような、嘆くべき結果が笑えて仕方ないとか、そのくせ嫉妬や恨みや、思いやりや諦めの悲哀が胸に沁みてくる。まことにアルモドバルとは心の万華鏡を織り上げる達人ですね。登場人物は決してたくさんではないのに、多彩な変化があるように(事実あるのですが)思わせるところは、アルモドバルが巧みに起こす化学変化によります▼中でも強烈な存在感を放つのがゲイのメイド、ファナ(ロッシ・デ・パルマ)です。主役から脇役までこなすアルモドバル映画の常連。非常に際立つ容貌上の特徴は、中央にドカンと、高々と、そびえる鋭い鉤鼻です。目は大きく、かっきりと見開かれ、唇は一文字、背が高く頑丈な体躯は、それだけで信頼感を呼び起こす。彼女は、メイクアップ・アーティスト、キカのメイドだ。キカはアメリカ人の作家、ニコラス(ピーター・コヨーテ)と出会い、関係を持つ。ニコラスの息子ラモンが発作で急死した、死化粧をしてやってくれといわれ、彼の別荘ユーカリ荘に行き、話しかけながらメイクを施していると、なんと、息を吹き返したのだ。息子は母親が自殺したのは父親の暴力のせいだと恨み、仲の悪い父子だったから親父は全然嬉しそうでもなく、さっさと南米に取材に行ってしまう。彼はテレビの人気番組「今日の最悪事件」のレポーター、アンドレア(ビクトリア・アブリル)の原稿も書いている。アンドレアはニコラスに恋している。ひょんな出会いから、キカとラモンは同棲するが、南米から戻ってきたニコラスともよりを戻すのだ。どんな関係も、いつでもどこでも「なんでもアリ」である▼さてファナだ。彼女とキカがこんな会話をしている。「どうせなるなら女子刑務所の所長がいい。女に囲まれて」「ヘビーな人ね」「純粋なのです」「男と寝たことは」「ない、でも弟とだけ。頭が弱かったので抑制できないのです。村中の羊や牛とやっていたのです。そのうち近所の女に手を出しそうなので、わたしがガス抜きしたのです」。その弟が刑務所を脱走してファナのところに転がり込んでくる。「姉貴、泊めてくれ」「すぐばれるわ、従兄のところへお行き。お金はこれだけ、もうないわ。わたしを縛ってご主人の書斎に行き、カメラか何かを盗んでお金に替えな。書斎だけだよ」「腹が減った、食べてもいいか」「食べないで。刑務所なら食べるのに困らない。お前にぴったりのところなのに」「女がいない」「男がいるでしょ」「全然ちがうよ」「なんでも欲しがるのね」。書斎だけだと姉から釘を刺されたのに、愚弟はキカの部屋を覗く。キカは昼寝である。弟は「たまんねえ」ヨダレを垂らしてキカを眺め回し、グレープフルーツを一房もぎ、キカの陰部に入れて取り出すと、雫の落ちそうなそれを口に含む。ぬけぬけとこういうシーンを入れるのがアルモドバルなのだ。キカは目が覚めて大騒ぎするが、所詮キカのタメ口と男の掛け合いである。弟は絶倫男だ。キカは「2回もいけば充分でしょ。レイプするならサイテーの礼儀としてコンドームくらいつけたら。記録を破る? 何回いくつもり? え、4回!」▼アンドレアはカメラを装着したヘルメットをかぶってネタ探しに町中を走り回っている。取材のためなら盗撮もする。盗撮ビデオを見ているうち、ニコラスの秘密に気づく。彼は小説のネタづくりに本当の殺人まで犯していたのだ。アンドレアとニコラスは殺しあって死ぬ。息子のラモンは母親の死が実は父親による殺人だと真相がわかり、「いいことが一つもなかった人生」をはかなみ自殺する。そこへキカが駆けつけ、足の親指に電流を通して生き返らせるが、息子はそれでも死を選ぶ。キカは家を出ることにする。ファナもキカについて行くといい、荷物をまとめてついてくる。ファナはキカに対する愛情を隠そうともしないが、ストレートのキカはファナを置いてきぼりにし、ヒッチハイクで乗り込んだ車で新天地を目指す▼「終わったことよ。忘れるのが愛よ」というキカのセリフは万能ですね。くよくよするのがバカみたい。いってみよう。「忘れるのが愛よ」そうか、明日は明日の風が吹くのか。ビクトリア・アブリルの着ているロボットみたいな衣装はゴルチェです。

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