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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2017年5月19日

特集 LGBT—映画に見るゲイ219 
孤独のススメ(下)(2016年 ゲイ映画)

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監督 ディーデリク・エビング

出演 トン・カス/ルネ・ファント・ホフ

シネマ365日 No.2120

無理しない、男同士・女同士の愛

特集「LGBT—映画に見るゲイ」

だからこの静かな、美しい映像の映画にごちゃごちゃいいたくないのですが、フレッドの気持ちの移り変わりがもう一つ手応えがないのです。彼は息子がゲイだとわかった時点で家を追い出したわけですね。じゃ、彼は同性愛嫌悪者だったのか。そうかもしれない。それにしては得体のしれないテオと結婚しようというのは急変にしか見えない。フレッドの一人住まいは完璧な小宇宙と呼べるほど慎ましい。孤独かもしれないがフレッドが寂しがっていると映画は示していません。そう熱心な信者ではないかもしれないが、教会にも行くし、近所付き合いもする。社会不適合者ではない。田舎のバスに行儀よく座り、美しい並木の続く道を揺られていく。彼がどんな会社のどんな仕事をしているか、映画は具体的に映さない。ここへ来て(はてな)と思うのです。この映画は何を写したいのでしょう。実に浮世離れした映画ではありませんか▼フレッドという男性は、不意に出現したテオに愛を感じたことになる。どうして? どうしてもこうしても、好きになったのだから仕方ないだろ、と言われたらそれまでなのですが。フレッドとテオが気の合う男同士であることはわかりました。テオはいきなり、第三者の前でフレッドと「結婚する」と口走り、それを聞いた相手はぎょっとする。フレッドは慌てて「冗談ですよ」ととりなす。でも非常にしばしば、誰の前でも唐突に「結婚する」というテオをとうとう殴り飛ばす。テオは無抵抗。男同士の愛情といってもこの映画に関する限り、水蒸気みたいなものが立ち込めているだけで、抱き合うでもなければベッドインするでもない。欲望や形而下的な妄念は入り込む隙がない、そう思っている間にフレッドはテオに妻のドレスを着せ、土砂降りの雨の中教会に走り「僕たちは結婚するのだよ」と十字架の前で言っているのだから、ポカンとしたのはわたしだけでしょうか▼そらね、辻褄合わせだけがいい映画ではないですよ。意味不明であろうと理解不能であろうと、解釈を超越していようといい映画もあれば面白い映画もある。ついでに白状するけど、本作のオープニングに立ち込めた、あまりに清澄なスクリーンの空気に、「見よ、これこそハリウッドが逆立ちしても表現できない新世界の映画ではないのか」と叫びかけたわたしなのです。でもね、妻を愛し、ゲイの息子を追い出したフレッドが、不意に同性愛者になる心の変化についていけなかったのは事実。ハリウッドなら(ここぞ)とばかり、コテンコテンの具体的描写を見せてくれるのに。ここから先がわたしの結論ですけど、なんでフレッドはテオと結婚し、一緒に暮らしていく気になったか。要はパートナーが欲しくなったわけよ。結婚という形だろうとどうだろうと、一緒にいれば幸せな相手が。この発見ってある意味ショックでした。別にベッドを共にしなくても、性愛を伴わなくてもいいわけね。気があうから、もっとはっきり言えば、そばにいるのが邪魔にならないから一緒にいようよ、俺は、わたしは、けっこうあなたが好きだし、家事も協力してやっていけるよね…という男同士、女同士の愛情もあるのだわ。同性愛って異性愛と同じ、愛憎半ばする強烈な恋愛感情のぶつかり合いだけではない、それよりもっと広い、淡い感情の「中間地帯」があるとこの映画は教える。うわ〜、どうしてくれるのだよ〜。これじゃダイバーシティはますます宇宙的膨張を続けることになるじゃないか▼本作は「同性愛であるかないかなど、執拗に見極める必要などない」と言っているのと同じです。同性愛とは、シスターフッド、ブラザーフッドと同質の基本友情である。ミシェル・フーコーなんか、はっきりそう言っているもん。だからちょっと大げさになるけど本作は、わたしには、同性愛という関係に、新しい地平線を開いたような映画に思えた。大事なことは「共にある」という関係を寄り添って成り立たせていくことで、それが同性愛と呼ばれるものか、異性愛と呼ばれるものか、結婚という形をとるものかとらないものか、フレッドの息子の歌うように無理をしない「ありのままの」男同士、女同士で出発したらどう? そんなふうに呼びかけている映画に思えたのです。心安らぐ捉え方じゃありません? 監督のそういう世界観を最も表すのがテオの奥さんだと思うわ。彼女は夫が事故の重傷以後、脳に障害をきたし、言葉もしゃべれず、家を出て徘徊・彷徨を繰り返すようになってもうろたえない。たいてい数日したら誰かに保護されてどこからか帰ってくるのだし、その時は「おかえり、ダーリン」といって抱きしめている。夫が男と一緒に住みたいらしいから、時々「様子を見に行ってもいい?」とフレッドに訊く。着替えを持っていってやる。フレッドが奥さんと一緒にではないにせよ、マッターホルンに行く夢を叶えるなら、貯金していたお金のテオの分、使ってちょうだい…心の広い、寛容で冷静な、素敵な女性だと思いました。

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