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特集「クラシック音楽の名場面」

2017年6月1日

特集「クラシック音楽の名場面」① 
ザ・ビッグマン華麗なる金庫破り(1972年 犯罪映画)

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監督 ミケーレ・ルーボ

出演 カーク・ダグラス/ジュリアーノ・ジェンマ/フロリンダ・ボルカン

シネマ365日 No.2133

モーツアルト「交響曲第40番」

01-05_クラシック音楽

ハンブルグの日曜日、ひっそり静まったビジネス街の保険会社の大金庫「ビッグ・ベン」に眠る200万ドルをいただく。未曾有の金庫破りに挑むのは、刑務所を出所したばかりのスティーブ(カーク・ダグラス)だ。妻アンナ(フロリンダ・ボルカン)と平和な暮らしを手に入れるためにも、まとまった金が欲しい。行きがかりで知り合った、サーカスのブランコ乗りマルコがジュリアーノ・ジェンマだ。ビッグ・ベンはコンピューターによる完全制御。泥棒が起こすあらゆる音を感知し、反応するようプログラムされている。金庫室に入ったら足音はおろか呼吸さえもダメ。難攻不落の大金庫は果たして破れるのか▼あらゆる音で実験を繰り返すスティーブは、ふと気がついた。コンピューターはあらゆる音を拾うのに、市街電車や楽団の演奏する音には作動しないのだ。自然の音と音楽には「無関心」なのだ。スティーブはモーツアルトの40番をかけてみる。コンピューターは微動もしない。やっぱり。あらゆる準備を整え、スティーブは決行日を決めた。アンナはスティーブが再び刑務所に入るようなことがあれば、考えるだけでも生きた気はしない。彼がいなかった3年間の寂しさは二度と味わいたくない。スティーブはこの大仕事が最後だというが。アンナの気はやすまらない。マルコを見ていると、こんな屈託のない男がパートナーなら、人生どんなに気が楽だろうと思う。決行当日。アンナがニセ電話で守衛室から守衛を引き離したすきにスティーブは侵入。止まっているエスカレーターを上って金庫室に。まずドアの鍵を開ける。中は広い白い部屋。金庫はどこにあるのか。スティーブは慌てない。低い低い滑空のように滑り出す「40番ト短調」。小林秀雄が「疾走する哀しみ」と書いたあれだ。白い床の中央から、巨大な円筒の大金庫「ビッグ・ベン」がせり上がってくる。数ある交響曲の中から、バッハでもなくベートーヴェンでもなく、ブラームスでもなく、モーツアルトの40番を選んだ感性に脱帽▼カーク・ダグラスはこのとき56歳でした。彼は2017年現在100歳です。素晴らしい気力・体力ですね。本作でも精悍で引き締まった容貌に肉体。マイケル・ダグラスのパパですが、ダメ男のヘタレ役ばかりやっている息子に比べて、格段にいい男よ。アンナのフロリンダ・ボルカンはルキノ・ヴィスコンティが「地獄に堕ちた勇者ども」で娼婦役に抜擢し、シーンは少なくても(この人、だれ?)と印象に残りました。ジュリアーノ・ジェンマは34歳。金髪であどけないほどの好青年です。貧しい家で育ち子供の頃から働いて家計を支え、体操やボクシングで賞を取るスポーツ少年でした。残念なことに、2013年75歳で事故死。本作ではアンナと愛し合い、スティーブを裏切り、結局殺される役で、後味がいいとはいえませんが、彼が現れると、重い空気がいっぺんに軽くなるような爽やかさは、生来のものでしょう▼もうひとつ、本作の音楽はエンニオ・モリコーネです。彼の数え切れないスコアの中でもかなり異色です。ポツンポツンと小刻みに入るサウンドが不安感を呼び込み、不透明な展開をほのめかす。「夕陽のガンマン」みたいに、いかにも(これから一波乱あるぞ)と押し付ける、ドラマチックなイントロではなく、もっと名人技です。初めて見た時から、この映画、音楽だけでとても好きでした。

 

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