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特集「クラシック音楽の名場面」

2017年6月4日

特集「クラシック音楽の名場面」④ 
クララ・シューマン「愛の協奏曲」(2009年 恋愛映画)

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監督 ヘルマ・サンダース・ブラームス

出演 マルティナ・ケデック/パルカル・グレゴリー/マリック・シディ

シネマ365日 No.2136

ブラームス「ピアノ協奏曲第1番」

01-05_クラシック音楽

クララ・シューマン(マルティナ・ケデック)は20歳でシューマン(パスカル・グレゴリー)と結婚し、16年間のあいだに8人の子を産んだ。ほとんど「空き家」なしで、妊娠・出産・育児に追われていたことになる。しかも公演のスケジュールに合わせ、各地に飛び回る毎日、演奏しないと経済的に逼迫する。シューマンがデュッセルドルフで得た音楽監督の座は、彼の情緒不安定で失ってしまったし。「子供は3人か4人で充分」といったクララの言葉には、育児と家庭と仕事と、家事雑用。激務の上にも激務であった日々に、うんざりした響きが聞き取れる。本作を「クララ・シューマン愛の協奏曲」などと、感傷的な邦題をつけたのは、多分男性であろう。あなたたちがいう愛とは女にとってかくも果てしない労働か…クララが聞けば失笑するだろう▼製作陣が充実しています。ヘルマ・サンダース・ブラームス監督は名の通りブラームスの末裔、マルティナ・ケデックは「素粒子」「善き人のためのソナタ」「マーサの幸せレシピ」などが日本で知られています。「グッド・シェパード」もありました。本作では愛情あふれるしっかり者の母親にして一流のピアニスト、作曲家にしてブラームスのミューズという、骨太のたくましい女性を演じて似合っています。シューマンはパスカル・グレゴリー。繊細ですね。シューマンはベートーヴェンの後継者にして天才的な作曲と世間ではいわれるが、浮世の雑事に疎く子煩悩だが妻の育児・労働負担にはさあ、どこまでわかっていたのか。ところがブラームスは逆。クララの演奏を聴いて雷に打たれたごとく感動する。ブラームスは20歳、クララは14歳年上です。でもブラームスはヘッチャラ。彼の両親が母親の方が父親よりだいぶ年上だったから(そんなこともアリ)平然としていた。彼がシューマンの家を訪問したところ、子供達は陽気で気さくなブラームスにすっかりなつき、そのまま居候に。シューマンはブラームスの才能を疑わず、自分の後継者として世間に紹介します。演じるマリック・シディが若いときのブラームスに、笑っちゃうほどそっくりなのです▼音楽史上有名な三角関係ですが、誰も現場を見たわけじゃなし、どこまでどうだったのかわからない。しかしブラームスがゲルマン男のストイックさで、頑固なまでにプラトニックな熱愛を捧げた、というのはありうるように思える。彼の音楽を聴いていると、堂々たる華やかさのうちに、ヒョイともろいまでの叙情が纏綿として、と思うとあっという転調で、またもや訥々と語る無骨な調子。クララは家を切り盛りし、女性差別を跳ね返し、夫に代わり男社会のオーケストラで指揮棒を振り、見事な指揮で楽団員を黙らせる。家に帰れば8人の母。こういう肝っ玉母さんが、ブラームスのタイプだったのでしょうね。要はウマが合ったのよ。シューマンが没し、悲嘆にくれるクララをベッドで抱きしめ、ブラームスは「僕は君と寝ない」(な〜んや、と一瞬思います)「この腕で抱き続けるよ。命が尽きるまで。君が死んだら後を追うよ。死の世界にお供する。彼の元へと」▼エンドのナレーションはこうです。「クララ・シューマンとブラームスの絆はクララが亡くなるまで結ばれ続けた。約束通り、ブラームスはクララの死から数ヶ月後、後を追うように亡くなった」。クララは76歳。ブラームスは64歳。生涯独身だった。しかしそういうことなど実はどうでもいい、と思わせてくれるのが、ブラームスの「ピアノ協奏曲第一番」です。これを聴かせるために映画は作られたみたいでさえあります。ブラームスとは掛け値なしの天才だった、そう思ってしまう。ブラームスに対する同じ思いをクララもシューマンも抱いたであろう。美しくダイナミックな旋律を演奏するクララ。どんな生みの苦しみを経たとしても、いったんこの世に送り出された芸術とは、人間を力づけ、勇気と感動を与え、心を幸福にするためにある、それを信じるに足るクライマックスのシーンでした。

 

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