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特集「クラシック音楽の名場面」

2017年6月6日

特集「クラシック音楽の名場面」⑥ 
イングリッシュ・ペイシェント☆(1997年 恋愛映画)

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監督 アンソニー・ミンゲラ

出演 レイフ・ファインズ/クリステン・スコット・トーマス/ジュリエット・ビノシュ/コリン・ファース/ウィレム・デフォー

シネマ365日 No.2138

バッハ「ゴールドベルク変奏曲第1章」

06-10_クラシック音楽

アカデミー作品賞、監督賞、助演女優賞、撮影賞、編集賞など9部門で受賞。3時間近い長尺で、ちょっとしんどかったけど、ミンゲラ監督の、何が何でもこの大恋愛映画を後世に残さねばならぬ、そんな情熱を感じました。舞台はリビアの砂漠。貫通するタテ軸は探検家アルマシー伯爵(レイフ・ファインズ)と、考古学の調査に加わった英国人のジェフリー(コリン・ファース)の妻キャサリン(クリスティン・スコット・トーマス)の不倫。不倫は夫の知るところとなり、彼はセスナ機を突っ込み、アルマシーも妻も殺そうとするが、自分が即死、妻は重傷で動かせない。アルマシーは考古学上の大発見である壁画「泳ぐ人」の描かれている洞窟にキャサリンを運び、三昼夜歩いて救援を呼びに行くがスパイの嫌疑で足止め。地図をドイツ軍に売り渡し洞窟に到着したときキャサリンは死んでいた。電池が尽きるまで書いた日記があった▼横軸は、カナダ人看護師ハナ(ジュリエット・ビノシュ)の再生の物語。空襲で破壊された修道院に棲みつき、移動させられない「英国人の患者」の手当てに当たる。彼女が愛した男たちはみな死んだ。ハナは自分が死に取り憑かれた女だと思っている。戦争だから仕方ないのだけど、英国人の患者も遠からず息をひきとるだろう。廃墟の修道院にひっくり返って、斜めになったピアノがあった。鍵盤を叩くと、壊れかけているとは思えない澄んだ音が鳴った。ハナは体を斜めにして弾く。「ゴールゴベルク変奏曲」だ。この直前にアルマシーとキャサリンが、二人だけで出張することになり、ジェフリーが見送るシーンがある。ジェフリーはすでにふたりの仲を察知している。射殺すような鋭い視線を投げた瞬間、場面はゴールドベルク変奏曲に転換する▼あまりに鮮やかな「ゴールドベルク」の登場には、予感めいたものが秘められています。キャサリンとアルマシーの、またジェフリーの死がこの後展開されるのだけど、演奏する(アッという間だけど)のがハナという設定に、愛も生きる希望も失ったハナが、美しい調べに自分を取り戻す、そういう深読みできるシーンなのです。もっというなら戦争で全てをなくした男と女が、絶望と虚無から人間の感情を取り戻していく繊細なシーンが「ゴールドベルク」以後には描かれるのよ。キャサリンはおそらく自分が死ぬとわかっている。抱き上げて洞窟に運ぶ男に「あなたは私と風の宮殿へ」「夢が実現するのだ」死のうと生きようと今は二人だけになりたいという欲望が煮え立っています。救援に戻ってくるとアルマシーはいい、砂漠の炎天下を鬼になって歩き出す。女の亡骸を抱いて洞窟から出たアルマシーは、女を飛行機の前部座席に座らせ操縦桿を握る。離陸し地上からの攻撃にあい、墜落。アルマシーは全身大火傷で病院に運ばれるが記憶をなくしていた。記憶喪失が物語をミステリアスにしているのですが、過去を取り戻すプロセスが挟まったため冗長になったのは否めない。とにかくハナのいうとおり、関係者はほぼ死んじゃう。両手の親指を切り落とされた兵士カラバッジョ(ウィレム・デフォー)は、アルマシーに復讐を誓って追いかけてくるが、アルマシーは生きながらえる気はない。「僕を殺すのか。もう死んでいるのに」▼戦争が終わった。イタリア北部にいたハナたちはフィレンツエに移動する。「ハナ、早く乗れ」村の女と一緒にカラバッジョは町にいくつもりだ。ハナの声は明るい。「後ろに乗るわ」といって後部座席の兵士たちに混じって座る。車は砂埃を掻き立てて走る。印象的なセリフが幾つかありました。「君の幸せなときは?」「今よ」「不幸なときは?」「それも今よ」「好きなものは?」「ママレード中毒なの。それにお風呂。島も。水。水の中の魚。あなたの筆跡」「嫌いなものは?」「ウソ。あなたは?」「所有し、所有されること」。やっぱり男って観念的ね。キャサリンが、好きなものに「あなたの筆跡」をあげたとき、ぐっときたわよ。わからないでしょうね、この感覚。メールだ、ヘチマだと、書くことが、体温のある筆跡が稀になった今では。

 

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