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特集「クラシック音楽の名場面」

2017年6月7日

特集「クラシック音楽の名場面」⑦ 
シャイン(1997年 事実に基づく映画)

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監督 スコット・ヒックス

出演 ジェフリー・ラッシュ/リン・レッドグレイヴ

シネマ365日 No.2139

ラフマニノフ「ピアノ協奏曲第3番」

06-10_クラシック音楽

フジコ・ヘミングによってすっかり有名になった「ラ・カンパネラ」が、本作では主人公デイヴィッド(ジェフリー・ラッシュ)の、記念すべき演奏会復帰初リサイタルに弾かれます。グレンデール精神科病院から走り出たまま、デイヴィッドは、雨の夜とあるレストランに行きつき、そこでピアノを弾く、演奏の素晴らしさに人々は驚嘆、どう見ても居所不明らしい彼を店の2階に居候させます。レストランで「クマンバチの飛行」を猛スピードで弾くのは神業です。デイヴィッドの演奏は手の部分は本作のモデルである実在のピアニスト、デイヴィッド・ヘルフゴットが自分で弾いていますが、14歳までピアノを習っていたジェフリーが、猛特訓して撮影に臨みました▼彼が神経に異常をきたし始めたのはロンドン王立音楽学校の奨学生のとき。下半身スッポンポンで階段を歩き、常に小刻みに頭を動かし、同じ単語を早口に何度も繰り返します。父親ピーターのむちゃくちゃ厳しい英才教育のおかげで、幼いときから友達と遊ぶこともできず、練習に明け暮れた。父親の口癖は「いつも勝つのだ。人生は残酷だ、それに耐えて生きるのだ。音楽だけが信じられる。私の愛は誰よりも強い。お前を守ってやる。永遠に」。明けてもくれてもこんなプレッシャーかけられたらおかしくもなるわ。ピアノの先生がラフマニノフはまだ早い、と制止するのも聞かず練習させる。おまけに難曲中の難曲と言われる「ピアノ協奏曲第3番」だ。「1本の手に指が10本あるつもりで弾け。目隠ししても弾けるようになるのだ」と親父は檄を飛ばす。音楽に打ち込む純情な、感性の細やかな子にとってはまるで呪詛よ。少なくとも映画ではそんな父親が描かれる。それにこの親父、感謝と言うものを知らないのね。家の中の専制君主です。妻も娘も父親の顔色を伺っている。家の中は陰気で暗い。アメリカに留学させようと先生がいうと「そんな金はない」。すると有志一同が発起人になって、留学費用を捻出するのよ。それなのに親父は「アメリカになどやらん!お前をここまでにした父親を捨てていくのか!」と怒り狂い、人々の好意を踏みにじるのです。極度の失望とストレスのため、デイヴィッドは風呂の中で脱糞する▼アメリカがダメならイギリスへ。デイヴィッドはロンドンへの奨学生が決まったとき、今度こそ父親を拒否、渡英します。学内コンサートで「ピアノ協奏曲第3番」を弾き絶賛を得る、しかしデイヴィッドが文字通り死ぬ気で弾いた悽愴な演奏は、かろうじて持ちこたえていた彼の神経をズタズタにし、直後に精神の失調をきたします。彼は故郷に戻り入院します。華やかに花開くべき天賦の才能が彼を暗いほう、暗いほうへ引きずり込んでいく。愛ゆえの厳しさ、それはわかるのだけど「明日という日はないと思って弾け」とか「出ていったら二度と家には入れない。必ずバチが当たる」とか「弱い虫ケラは踏み潰されて死ぬ。この世は弱肉強食だ」とか、寝ても醒めても耳元で吹き込まれたら、言葉でムチ打たれているようなものじゃない。まして子供なのに、神経は参るわよ▼レストランで演奏するようになって、コンクールからも親父のスパルタからも解放されたデイヴィッドは、よく笑い、よく喋るようになり、徐々に自分を取り戻し、占い師ギリアン(リン・レッドグレイヴ)と結婚します。レストランで弾くすごいピアニストがいると評判になり「この名に覚えはありませんか」と新聞に載る。名前とは「シャイン・デイヴィッド(輝けるデイヴィッド)」です。読んだ父親がデイヴィッドに会いに行く。デイヴィッドはこわばります。彼にしたら悪夢の再現でしょう。父親はすごすごと帰る。父親の死後「僕のせいかも」と墓の前でデイヴィッドは後悔しますが、もう誰にもどうしようもない、せめて「途中で捨てないで生きてきた」デイヴィッドが、ギリアンと幸福になれてよかった。最後に救いがあってよかったと思います。

 

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