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特集「クラシック音楽の名場面」

2017年6月8日

特集「クラシック音楽の名場面」⑧ 
オーケストラ・リハーサル(1980年 ドキュメンタリー映画)

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監督 フェデリコ・フェリーニ

出演 ボールドウィン・バース/クララ・コロシーモ

シネマ365日 No.2140

ニーノ・ロータ「嘲笑」

06-10_クラシック音楽

フェデリコ・フェリーニとニーノ・ロータが組んだ最後の作品。映画音楽のジャンルがあまり有名になり、ニーノ・ロータがクラシックの作曲家だということが忘れられがちです。この映画はニーノ・ロータの作品をオーケストラが演奏する、そのリハーサルをテレビ曲が取材に来た、という設定で始まります。楽団員たちはテレビ放映の分はギャラを別払いにしろとか、自分の楽器のよさを講釈し、指揮者なんかいなくてもいいとはじき出し、指揮者はカンカンに怒り、罵詈雑言の嵐。リハーサルは支離滅裂。フェデリコ・フェリーニは混沌とした無秩序をどうさばくのか。劇中吹き出すようなセリフが幾つかあります。70分の短い尺であっといわせる手際はお見事です。ニーノ・ロータはこの映画の直後亡くなりました。「道」「甘い生活」「フェリーニのアマルコルド」など、数々の名作を共に世に送り出した二人でした。クラシックを愛したニーノ・ロータのために、盟友フェリーニがこの世で用意した最高の贈り物が本作です▼老人の楽譜係が楽団員の椅子をセッティングしています。13世紀の礼拝堂がコンサートホールになっている。ぞろぞろ入ってきた楽団員たち。「もっと椅子を前にやれ。近すぎると楽譜が読めん」とチェロが文句をいう。ピアノ嬢は「ピアノは王様よ。コンサートを支配するのよ」。トランペット「奇跡の楽器がトランペットだ。情熱的で人間の内面の全てを表現できる。吹いた瞬間に別世界に飛んでいく」。チェロ二人は楽譜の取り合い。「ネズミだ!」と誰か叫ぶ。殺せとか、殺さないで、といい争ううち「指揮者が来たぞ」。指揮者は「まずは弦楽器」おもむろに音合わせを始めた途端「やめろ。まとまりがない。だめだ、だめだ、バイオリンの気品を忘れるな。フルートはEフラットで」「指定はEです」とフルートが言い返す。「私がEフラットにするんだ!」指揮者はかなり気が短いようです。クラリネットは4人で1チーム。一人はイヤホンでサッカーの実況中継を聞いている▼「弦楽器、何を怖がっている。最初からだ。オーボエ、でしゃばるな。だめだ、最初から。君たち、それでもプロか!」独裁者の罵声が飛び「不揃いだ、もう一度。いいぞ、その調子で。できるじゃないか」調子を上げてきた楽団員たちは上着を脱ぎマジになる、と見えたが…。テレビの仕事だなんて聞いていない、そうブウブウ言い出すので、マネージャーはいつもの倍の20分の休憩を与えた。バイオリン嬢が「景気付けのワインよ」とグビグビ。「中身はウイスキーだろ。酒癖が悪いぞ」「あんたの女癖よりマシよ」。チューバがいう「チューバは希望者が少ないのだ。野良犬に似ているのだよ。だから気に入ったのだけど。悲しげで、孤独で、私みたいだ。僕とチューバは親友同士だよ」。オーボエ「オーボエは最高だ。一番古い歴史を持っている。難しくデリケートで、孤独な楽器さ。オーボエだけが音域を決定できる。そのせいでバイオリンはオーボエを憎み、オーボエはバイオリンが邪魔だ。奏者の魂を高揚させ、特殊な高揚感を与えてくれる楽器さ」。楽譜係「昔は音を外したらその場で立たされた。練習は夜通し。夜が明けるまで。ミスしたら言葉より先に指揮棒が飛んできた」これは組合に対する皮肉だ▼停電。休憩は終わり。ところが高圧的な指揮者に楽団員が反乱。メトロノームのハリボテを楽屋から運んできて「指揮者なんかいらん!これで充分だ。指揮するなら逆立ちしてやれ」暴動である。ピアノ嬢はピアノの下で男とイチャイチャする。そこへ不気味な音と共に建物が揺れ、壁にひびが入り、轟音と共に大きな鉄の玉が壁をぶち破った。浅間山荘のような鉄球です。あたりは埃が舞いみな瓦礫に埋もれ、頭から真っ白。ハープ嬢は怪我をしたらしく運び出された。指揮者はやおら立ち上がり静かに声をかけた。「みんな、楽器の点検をしなさい。君たちの命だろう。音楽が我々を救う。休憩は終わりだ」壁も崩れ、天井も落ちた礼拝堂で椅子はペシャンコ。みな立ったまま演奏する。指揮者が叱咤する。「しゃべりすぎて息が切れたのか。弦楽器はどこだ。聞こえないぞ。トランペットは強く、死者を目覚めさせろ。子守唄より弱いじゃないか。それでも音楽家か!」指揮者も楽団員も埃まみれになり、愛器を抱え、足を踏ん張る。ラストシーンに演奏されるのがニーノ・ロータの「嘲笑」だ。フェリーニが描いたのは文字どおり、崩壊の後の再生です。頑固な指揮者、節を曲げぬタクト、彼に怒鳴られ、抵抗しながらも共に音楽を愛する楽団員、全員が一心不乱に廃墟で練習するラストシーン。フェリーニと、ニーノ・ロータの映画と音楽への愛で、70分が高密度に圧縮された快作です。さすがというしかないですね。

 

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