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特集「ダンディズム-dandyism-」

2017年6月14日

特集「ダンディズム3」 ④ マルチェロ・マストロヤンニ 
ポランスキーの欲望の館(1972 年コメディ映画)

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監督 ロマン・ポランスキー

出演 マルチェロ・マストロヤンニ/シドニー・ローム

シネマ365日 No.2146

わたしのドン・キホーテ 

ダンディズム3

タイトルといい、ジャケ写といい、漫画チックこの上なく、しかもマルチェロ・マストロヤンニが主演で、共演の女優はシドニー・ローム、ロケはカルロ・ポンティ(プロデューサー)の別荘、監督がロマン・ポランスキーで、わざわざ「ポランスキーの」とタイトルに名前を入れるとくれば、悪ふざけ以外に何が期待できるだろう。そう思ってみたら悲しくなるほど的中した。マルチェロがトラの皮を被ってシドニーを襲い、床に転がってニャンニャンする変態ぶりは、彼の出演作の中でも出色だろう。カトリーヌ・ドヌーヴはこれを見て何といったのだろう。もっとも彼女もロバの皮を被ったことはあるけどね。そういうところで気が合ったのかもしれないな▼筋らしい筋は何もありません。ヒッチハイクしてトラックに乗ったナンシー(シドニー・ローム)が荒くれ男3人にレイプされかけ、服をビリビリに破かれながら、脇道に逃れ、妙なゴンドラに乗って去る。男たちは「そっちへ行ったらヤバイぞ」と教える。行かなくても、どっちみちヤバイのだ。たどり着いたのは豪邸で、つまり「欲望の館」である。うろうろしているのは変態ばかり。女たちはフルヌードで通り過ぎ、男たちはナンシーに欲情、犬まで発情する。といってそれ以上刺激的なシーンはなく、シドニー・ロームは半裸で館の中のあっちの部屋、こっちの部屋を覗いてまわる。彼女は21歳。本作の2年後、アラン・ドロンの「個人生活」で共演します。アレックス(マルチェロ・マストロヤンニ)も館の滞在客の一人。シドニーにアフリカで狩猟したというトラの皮を見せ、コスプレのSMをやってみせるシーンは気合入りすぎ。二言目には「二人きりになれるところへ行こう」とナンシーを口説く。で、近くの浜辺に来て、このときのマルチェロは船長さんの制服で、おもむろに現れたのはいいが、ナンシーの一言一句が気にいらないと罵り、その都度豪快にビンタを張る暴力男に変身する。なんでこうなるのか一切脈絡はありません。説明もなし。監督は昼寝でもしていたのでしょうか▼ナンセンスな映画もあっていいかもしれないけど、本作に限っていえば観客不在ですね。いくら遊び心で作っても、はじめから終わりまで無意味でした。マルチェロがなんでこんな映画に出たかわかりませんが、彼の信条によれば「歳をとることで得られる知恵があるとすれば、人生に対してはいつでもそれを肯定するようになったこと。どんなに困難な時期を迎えても、どんな難問が生じようと、人生を受け入れられるようになった」と語っています。彼は本作のとき48歳でした。歳をとったというほどでもないが、若くはない。デビュー以来50本以上の映画に出演し、国際的な映画賞を取り、評価の高い監督からのオファーを途切れ目なく受けています。すでに膨大な仕事をしてきたのに、彼は自分について語ることは驚くほど少なかった。自作について短いコメントをつけて「自伝」としていますが、その中でこんなことをいっています。マルチェロという人を、とても好きになった文章です「人はみな時がくればこの世を去らねばならない。誰もが知っていることです。しかしそんな無意味な真実がなんの役に立つというのでしょうか。わたしたちはみな、どこかきっとドン・キホーテのようなところがあるのです。現実より、なにがしかの幻想のほうに、ずっと強い影響を受けているのではないでしょうか。映画の世界だってそうでしょう。ちがいますか」▼この視点から見れば本作の駄作ぶりなど吹けば飛ぶようなもの(笑)。つまらない真実より、人生を活気づけるなにがしかのファクターのほうが大事だ。幻想であろうと夢であろうと、映画であろうと、おとぎ話であろうと。マルチェロ・マストロヤンニの強靭な知性は現実と幻想の間にチマチマした線引きなどしない。いつでも生じたことを肯定し、人生を受け入れていく。際立ったダンディズムだと思いません?

 

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