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特集「ダンディズム-dandyism-」

2017年6月17日

特集「ダンディズム3」 ⑦ トム・ハーディ 
オン・ザ・ハイウェイその夜、86分(2015年 社会派映画)

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監督 スティーヴン・ナイト

出演 トム・ハーディ

シネマ365日 No.2149

この役はトムだ! 

ダンディズム3

帰宅を急ぐアイヴァン・ロック(トム・ハーディ)がハイウェイを走行中、一本の電話がかかってくる。7か月前に一度関係した同僚ベッサンが早期分娩で緊急入院、自分ひとりで誰もいない、出産に立ち会ってほしいとただならぬ声で頼む。アイヴァンは成功者だ。愛する家族と立派な仕事がある。建築現場の責任者であり、翌日には55階建てのビルの基礎工事に22万3000トンのセメントが運び込まれる。その指揮をとらねばならない。ヨーロッパで軍事基地は別として、過去最大のコンクリート大打設工事だ。車は分岐点に来る。いつものように右折すれば妻と子供が待つ家に、左折すればロンドンの病院だ。アイヴァンは左折する。これで彼の人生は激変した。車から電話で部下に、翌朝の作業の手配を指示する。部下のドナルは仰天する▼アイヴァンは子供のとき、父親が家を出た、父親に棄てられた傷がトラウマになって、「あんたのようにはならない」がアイヴァンの鉄則になった。アイヴァンは「サッカー観戦を楽しみに、私はテレビの前で子供たちにユニフォームを着せられているのよ」楽しそうに聞こえる妻カトリーナの声に、表情を変えずこう説明する。「ロンドンに出張したとき、打ち上げパーティで秘書のベッサンと過ちを犯した。15年でたった一度だ。彼女は42、43歳。魅力的な女じゃないが、孤独を感じるというので励ました。ただ私もひとりで寂しかった。部屋でワインを開けた。そして今夜彼女は私の子供を産む。自分でも信じられないが事実だ。彼女は最後の幸福だから産むと。子供はちゃんと認知する」「切るわ。吐いてくる」。ドナルにはこういった「彼女と一緒にいてやれるのは私しかいないのだ。傷つきやすい女性でね。彼女には誠実に接してこなかったが、それは信念に反すると気づき、正しいことをすると決めた」「女にひとりで産ませればいいじゃないか。大金がかかった仕事だぞ。失敗すれば15分ごとに1000万ポンドが飛ぶ!」「本社に報告する」。たちまち本社の指示が入った。「君はクビだ。他に選択肢はない」「わかったよ。しかし明日の仕事は成功させたい。コンンクリートが運ばれたら私が指示する」「何をいっている。即刻クビなんだよ!」▼アイヴァンは父親の幻に話しかける。「愛されようと憎まれようと、やるべきことはやる。事態を受け入れ正しく導く。私は終身刑になったような気分だ。原因は2本のワイン。そして孤独な女」電話のやりとりは妻と部下との電話のやりとりが何度も繰り返され、打設の準備はひとまず整った。子供たちはただならぬ両親の気配を察知し「試合前と全然違うよ、パパ」さりげなくサッカーの試合の経過などを楽しげに話して聞かせるのが健気だ。アイヴァンは「パパもやっと気持ちの整理がついた。目的地に着いたら電話する」そしてつぶやく「朝にはカトリーナも機嫌を直すはずだ。コンクリートが運ばれ、子供が産まれる」。そこへ妻から電話。「一度の過ちでも許せない。姉妹と相談したわ。一度のはずがないって。帰ってこないで。あなたの痕跡を消すためにすべてを洗うわ。終わりよ。子供にはあわせるわ。でも家に来てほしくない。どうせ何より建築が好きなのだし、高層マンションの最上階にでも住めば?」。アイヴァンは甘かった! 彼はものの2時間も経たないうちに、妻も仕事も家庭も家もすべて失ったのだ。アイヴァンの主張も信念もかなり強引な男の立場だけど、妻の決断たるや電光石火、凄いわね▼破水して不安を訴えてくるベッサンに、アイヴァンは「看護師を呼んだか。コールしろ。痛み止めをくれるはずだ」「寒いわ。窓が開いているの」「閉めてくれるよう、看護師に頼め。もう直ぐ着く」。どなたか付き添う方はという病院からの問い合わせの電話には「今そっちに向かっています」「ご主人ですか」「パートナーです」と淡々と、かつ我慢強く対応する。やがて電話口から元気な赤ん坊の泣き声が聞こえ映画は終わるのだ。ワン・シチュエーションだ。初めから終わりまでスクリーンにはトム・ハーディだけ。高速を明滅するヘッドラインや、テールランプが幻想的だ。ヨーロッパ最大の仕事を部下に任せて現場から離れるなど、無責任ではあるし、敵前逃亡であろう。しかしアイヴァンはビクともしない。「君はクビになったのだよ!」「わかった」「クビだけではすまないぞ」「…」ここまで頑固で、身の振り方の後先見ない男も稀有ね。ところがこういう役こそトム・ハーディに似合うのよ。監督は「アイヴァンはトムしかいないと思った」▼監督についていえば「イースタン・プロミス」「マダム・マロリーと魔法のスパイス」「マリアンヌ」で脚本を手がけ、「ハミングバード」で監督デビュー。本作は二作目にあたる。ロンドンの中心ブルームズベリーに本拠を置くユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)で英文学を学ぶ。UCLの自由主義は大学の周辺地域にも及び、特にブルームズベリー・グループが有名。

 

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