女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

特集「ダンディズム-dandyism-」

2017年6月18日

特集「ダンディズム3」 ⑧ クリストファー・プラマー 
手紙は憶えている(2016年 サスペンス映画)

Pocket
LINEで送る

監督 アトム・エゴヤン

出演 クリストファー・プラマー/マーティン・ランドー

シネマ365日 No.2150

復讐する認知症の男 

ダンディズム3

ホロコーストが題材ですから、決して明るくも楽しくもなりようのない映画を、緊密なプロットを重ね、最後のドンデン返しに落とし込む手際が、サスペンス・エンタテイメントの佳品に仕上げています。もう一つ。主役ゼヴを演じたクリストファー・プラマーの圧倒感。彼はこのとき86歳で、90歳の主人公を演じました。映画の申し子ともいえるキャリアはますます充実し、ここ数年の作品群に目を見張ります。「終着駅 トルストイ最後の旅」でアカデミー助演男優賞にノミネートされた、と思ったら翌年「人生はビギナーズ」で受賞。「ドラゴン・タトゥーの女」でますます健在、「トレヴィの泉で二度目の恋を」は色も艶もある高齢男性を、「天才贋作画家最後のミッション」は、泥棒一家の元締め詐欺師を演じ、最後にしっかり騙してくれました▼この人がスクリーンに現れると、どんな役にもかかわらず、なぜか安心するのですよね。彼の映画で最も観客を動員した作品の一本である「サウンド・オブ・ミュージック」のトラップ大佐。プラマーは36歳でした。凛々しく堅物の軍人がぴったりで、トラップ一家の歌う「エーデルワイズ」の澄んだ歌声は今も耳に残り、何処の国、何処の人々を問わず、愛と平和を愛する全ての人々に歌い継がれていくでしょう。その彼がアウシュビッツから70年、家族を失った復讐を遂げるため、介護施設から逃走し、犯人を追い詰めます。こう書くと、いかにもスリリングでスピーディーな展開が予想されるでしょうがー事実そうには違いないのですが、ゼヴは認知症で、妻を1週間前に亡くしたにもかかわらず、朝目が覚めると妻の名前を呼び、施設の中を探し回る。同じ施設にアウシュビッツの生き残り、マックス(マーティン・ランドー)がいます。彼は車椅子の生活です。ゼヴはある朝マックに「いよいよ約束を果たすときがきたぞ」と話しかけられる▼家族を殺したナチのオットー・ヴァリッシュは現在ルディ・コランダーという偽名で生きている、マックスはコランダーと名乗る人物を4名まで絞り込んだが、体が不自由なため行動できない、代わりにゼヴは単身、オットー探しの復讐の旅に出る。現金はマックスが充分に用意している。しかし朝になったら前日のことを忘れているので、ゼヴは自分の腕に「手紙を読め」と書いておく。手紙とは、マックスがゼヴのために書いておいた行動予定である。銃を買え、とあった。ゼヴはグロックの口径9ミリを購入する。現金は充分にマックスが用意していた。4人のうち一人目はアウシュビッツにいなかった。人違いだった。二人目は同性愛者であるゆえにナチの迫害を受けた、ゼヴと同じく被害者だった。三人目は死んでいたが、当時10歳で年齢が合わなかった。三人目が当て外れだったと聞いたマックスは「どうする。まだ続けるか、やめてもいいぞ」というが、ゼヴは続行する。ゼヴは認知症の身で、足元もおぼつかなげに復讐の旅をたどるのである。トボトボと歩くゼヴを、クリストファー・プラマーは、人生の終末をただ見届けるがために目的地に向かう、だがそれも翌日には忘れてしまう男を演じる。彼はついに最後の「オットー」にたどり着く▼ここからラストまで畳み込む展開は卓抜の技です。あっという間のドンデン返し、くどくどした説明は一切ありません、それだけにあっけにとられます。鮮やかとはこれを言うのでしょう。ネタバレはやめ。いい映画はご自分で見て欲しい。

 

Pocket
LINEで送る