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特集「美しい虚無-妄想映画の魅力」

2017年6月23日

特集「美しい虚無=妄想映画の魅力5」③
ブロークン(下)(2008年ホラー映画)

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監督 ショーン・エリス

出演 レナ・ヘディ/メルヴィル・プポー/リチャード・ジェンキンス

シネマ365日 No.2155

鏡が割れ惨劇が生まれる

特集「美しい虚無=妄想映画の魅力5」

もう一人の自分がいるというのは、心理的にも謎解き的にも昔ながらの魅力を秘めた設定です。そこへ「鏡」「成りかわり」「内臓逆位」「カプグラ症候群」といった、「シンメトリー・サスペンス」のキーワードが映画の進行に沿って語られる。導入とすれば、けっこううまいと思います。ジーナ(レナ・ヘディ)は28歳、13歳で母親を亡くし現在ロンドンの病院でX線技師として働く。冒頭、写真を見て「内臓逆位ね」と所見を述べている。彼女には恋人ステファン(メルヴィル・プポー)、父親ジョン、弟ダニエルと婚約者ケイトがいる。これが主な登場人物だ▼父親の誕生日パーティでリビングの大鏡がいきなり割れる。鏡が割れると7年間不吉なことが続くという言い伝えがあるらしい、といってそのときは笑って過ごす。そのあと、ジーナは赤いチェロキーに乗った自分とそっくりな女を見て、あとをつけ、とある建物に入っていくのを突き止める。鍵は開いていた。中に入ると自分の部屋とそっくりそのままだ。帰路、ジーナは交通事故を起こし病院に運び込まれ、意識が戻ったときは事故前後の記憶が欠落していた。映像が凝っています。冒頭紹介されるのはポーの詩だ。「お前が自分を殺してしまったということを、お前自身のものであるこの姿でよく見ろ!」…いうなればこれがネタバレなのです。詩やら内臓逆位やら、カプグラ症候群やら、それらしき単語でややこしさを掻き立ててくれますが、それらが全部わかったとしても、術中にはまりこんでしまうのがこの映画の繊細さ、でしょうね▼劇中鏡が割れるたびに惨劇が起こる。ジーナはステファンが別人になったような気がする。トゲトゲしい目つきで、いつも自分を監視しているみたいだ。あるとき、あなたとそっくりな人に出会ったと言われたが、その時自分は病院にいた。同じ経験は父親にも起こり、彼は大使館の職員に街で出会ったがあなたに無視されたと。でも彼にはその記憶がない。誰もいない廊下、半開きのドア、浴室の湯気に曇った鏡、入浴中の水槽、水滴の落ちる音、ホラーの常道であるシーンが繰り返され、ジーナはとうとう屋根裏部屋でステファンの死体を発見する。で、どうしたか、が次に映らない。このへんが作り方のうまいところというか、ずるいところというか。鏡に映ったジーナが自分自身に襲われるシーンがあって、どういう妄想オチにするのだろうと、この映画を見る目標はそればかりになってしまいそうだ。そろそろ白状すると、鏡が割れる→不幸なことが起こる前ブレ→不幸なこととは、本物がいる今の現実の世界ではなく、鏡の中の異世界から本人の替え玉が現れる→もちろん本人そっくりの別人だ→この替え玉は邪悪な精神の持ち主で元の本人を殺す悪人であるというわけ。鏡の向こう側から自分にそっくりな人間がこの世に現れ、そいつは殺人鬼なのだ▼で、父親の家の大鏡が割れた時、鏡の向こうの替え玉がこっちの世界に出てきていた。それも家族揃って5人分。自分のソックリさんを見て後を追ったジーナは、実は自分の部屋で悪のソックリさんに殺されるのです。でも交通事故の後遺症で本物を殺した記憶は消えてしまう。そしてもう一度自分の部屋に戻った時、ソックリさんは自分が殺した本物のジーナを発見する。つまり鏡から出てきた替え玉は本物のジーナを殺し、チェロキーに乗って逃走し、動転していたため車をぶつけ記憶をなくし、自分が替え玉だったことを忘れていた。本物を殺しちゃったのだから戻る肉体がない、鏡の中の幻想の生き物は消えるしかなくなる。本作は鏡の中にもう一人の邪悪な自分が閉じ込められていて、鏡が割れることによってそいつはこの世界に出てくる、という前提を信じなければなりたたない映画です。仮にそこまで「わかった」としても、元の自分を殺した替え玉の帰る世界をこの映画は示していません。そのへんをうろうろして誰かに憑依して生き延びる?本作の欠点を言えば、ここのケツのくくり方が弱いから半端感が拭えない。アジャはハッキリしたオトシマエをつけておりまして、悪霊の世界に手を出した人間が、健全な人間世界に戻れると思うな、とばかり鏡の中にそいつを引きずり込んでしまうのです。見ようによれば「悪霊の勝ち」というひどい映画かもしれませんが、作劇上の着地は鮮やかでした。

 

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