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特集「美しい虚無-妄想映画の魅力」

2017年6月24日

特集「美しい虚無=妄想映画の魅力5」④
妖精たちの森(1971年ホラー映画)

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監督 マイケル・ウィナー

出演 マーロン・ブランド/ステファニー・ビーチャム

シネマ365日 No.2156

完璧な思いちがい

特集「美しい虚無=妄想映画の魅力5」

回転」の前日譚です。「回転」は屋敷に出る男女の幽霊が男の子と女の子に取り憑こうとする、それを阻止する家庭教師のエクソシストでした。本作は幽霊になる前の男女が、屋敷で元気でいる頃のお話。粗野で淫らな庭番のクイントにマーロン・ブランド、女家庭教師ジェスルにステファニー・ビーチャム。枠組は「回転」に受け継がれているのとほぼ変化なし。屋敷の姉がフローラ、弟がマイルズ。本作ではまだ悪霊に乗っ取られていませんから、無邪気な姉弟です。彼らに毒を吹き込むのがクイントですが、彼を悪く言うのはちょっと気の毒な気もする。好色で、貧しいごく普通の田舎者というほうが妥当です。彼が画策して殺人を犯すわけではなし、口うるさい家政婦グロースの悪口を言って、規則に従順ではない、家政婦は扱いにくいクイントに業を煮やし、ご主人に言いつけてクビにしてもらうと怒る、どこにでもよく見られる光景です▼姉弟は荒っぽいクイントの素行や昔話を面白がる。そのうちクイントがジェスル先生の部屋に夜這いに行って、先生をロープでベッドに縛り、いじめて喜んでいるのを覗き見する。ああいう遊びがあるのだと、マイルズは早速姉フローラを縛り上げ、荒々しくムチ打った、部屋に入ったグロースは仰天、何をしているのかと訊くと「セックスさ」とケロリと答える。クイントが教えたのだとグロースは頭に来て、子供たちに会うなと言いつける。クイントとジェスルの逢いびきの場所は、大きな池の中にある東屋だった。ボートを漕いでいくのだ。ジェスルは泳げないからボートが怖くて、いつもビクビクしている。姉弟はクイントとジェスルが愛し合っていると思う。ジェスルは最初、強引にクイントに部屋に押し入られ関係を強いられた。こんな野蛮な男と、と後悔した。しかし屋敷内に男は彼しかおらず、ジェスルは「いつかこうなる」という予感があった。騒ぎたてて家庭教師をクビになったら食べていけない。いやいやながら関係を続けていくうち、クイントのサドマゾ的な愛撫を待つようになった。愛し合うという表現より、もっと情慾の濃い、淫乱で特異な関係と言える。でも子供は、男女が二人で忍び会っていれば愛し合っていることだと思う。「好きな人にはどうすれば会えるの」という問いに、クイントは「死んだら会える」と答えたから、姉弟はクイントと先生が幸福になるためには死ぬのがいちばんいいのだと決めました▼この二人は交通事故でいきなり両親を亡くし、叔父が甥と姪の後見人となりましたが養育には関心なく家政婦と家庭教師任せ、学校には行かさないで、家で家庭教師をつけて勉強させています。だから彼らの情報は極端に限られ、隔離されているのも同様です。姉弟で空想し、限りなく妄想を膨らませていくのです。二人の殺人計画によると、先生は泳げないからボートに穴を開けておき、逢いびきに漕ぎ出したら沈没するようにしておく、クイントは矢を射て、その後とどめを刺す、簡単な計画ほど成功率は高いというように、あっけないほど簡単にふたりは殺されてしまいます。子供達の犯罪をどういえばいいのか。彼らの頭の中に犯罪という意識も、殺人という意識もない。怖い妖精たちです。あくまで愛し合う二人がいつも会えるように死という世界に送りだしたまでだ。ならば彼らのしたことは許されるのか。せいぜい精神病院行きでしょう。あまりに平静な映画のトーンが不気味です。事故で死んだジェスルに代わり、新任の家庭教師が着任したところで前日譚は終わります。ミシェル・フーコーが「狂気の歴史」で書いていましたが「狂気とは完璧な思いちがいである」。この映画を見たら、そうとしか言えないです。

 

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