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特集「美しい虚無-妄想映画の魅力」

2017年6月29日

特集「美しい虚無=妄想映画の魅力5」⑨
インビテーション(2017年 スリラー映画)

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監督 カリン・クサマ

出演 ローガン・マーシャル=グリーン/タミー・ブランチャード

シネマ365日 No.2161

聖なる儀式

こういうのって困るわね。でも同情もするのよ。息子を事故で亡くした夫婦が、心の傷が癒えず離婚して2年、元妻イーデン(タミー・ブランチャード)から元夫ウィル(ローガン・マーシャル=グリーン)に夕食会の招待状が届く。元夫は交際中の恋人キーラを連れ、元住んでいた我が家に到着。迎えたのはイーデンと彼氏のデビッド。居間にはウィルの学校時代の友人たちが集まっておしゃべりに興じていた。全部で10人だ。ジーナの恋人チョイが遅れている。いつものことで先に始めることにした。家には同居している女性サディがいて、途中から見も知らぬハゲの中年男プルイットが参加した。同窓生ばかりだと思っていた先着組は明らかに白ける。ウィルは主催者ふたりのハイテンションが不自然に思われる。何か隠し事がある。留守電にチョイのメッセージがあり、彼は「今から家に入る」と。すでに到着しているのだ!おまけにデビッドは中から家中のドアに鍵をかけてしまった▼監督がカリン・クサマ。シャーリーズ・セロンの「イーオン・フラックス」やアマンダ・セイフライドの「ジェニファーズ・ボディ」なんか面白かったです。長い梯子の途中の桟を一つ、二つ外しておくのがこの人の作り方ですが、本作の外し方は豪快です。「美しい虚無」というより「恐怖の妄想力」というのが当たっているかも。主催者は「インビテーション」という新興宗教に入会したことを知らせ、同居人のサディとプルイットとはそこで知り合った、しかも男は刑務所から7年の刑を終えて出所したばかりで、「インビテーション」がいかに勇気と希望を与えてくれたかを力説するのだ。客の一人クレアは「悪いけど帰る」。ウィルは不安が沸騰し、本当のことを言え、チョイはもうこの家にいるんだ、どこに隠した、と大騒ぎする。全員動揺しただならぬ空気。そこへピンポン、やってきたのは他ならぬチョイ。家に入る直前に会社から電話が入り、引き返したのだって。ウィルは無礼を詫びるが腹の中では(いいや、こいつら、まだ正体を隠している)と不信を解かない▼教祖みたいな男がビデオで「末期ガン患者もこのように安らかに死ねる」と映像を映し出す。イーデンとサディは感極まって涙。死にかかっている人を平気で撮影する神経のほうが、よほどおかしいと思うけど。夕食後、インビテーションの教祖から信者に向けたメッセージが保存されているパソコンを、ウィルが開けた。不気味なお告げにウィルは引きつる。ハゲのプルイットがワインを飲もうとウィルを呼びにきます。階下では高級ワインを開け乾杯の用意。ウィルは「待て、俺たちを殺す気だ」と叫び、みんなのワイングラスをはたき落すが、飲んでしまったジーナは口から泡を吹き死んでしまう。もうこうなったら隠す必要はない、ハゲ頭は殺人鬼と化し、デビッドはバンバン拳銃を放って手当たり次第射殺、逃げ惑う客たちは一人、また一人と殺されるのだ。イーデンは自殺してしまった▼サディは聖なる儀式をぶち壊したと、ウィルを襲いますが返り討ち。殺したり、殺されたりした挙句、ウィルとキーラは無事脱出。眼下の町ではいたるところで爆発があり、火の手が上がり、集団テロというより、教祖の指導する自決・自爆によって、聖なる安らぎを得る儀式が進行中だったのです。ゾッ。クサマ監督の作品にはこういうオカルトチックな狂信者グループがよく登場します。「27の映画祭が熱狂した傑作スリラー」がジャケ写の売りです。傑作とは言い過ぎだけど、妄想によって狂う恐ろしさもさることながら、判断力を奪われる怖さをまともに扱っています。その原因になったのが息子の死だったことが、この映画をバカバカしいと決めつけるのをためらわせる。人間って、最愛の人をなくしたことが、途方もない遠心力になって、止めどなく正気から遠のいていく。そんなことってあるのよ。

 

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