女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

特集「美しい虚無-妄想映画の魅力」

2017年6月30日

特集「美しい虚無=妄想映画の魅力5」⑩
アノマリサ(2015年 日本未公開)

Pocket
LINEで送る

監督 チャーリー・カウフマン/デューク・ジョンソン

出演 デビッド・シューリス/ジェニファー・ジェイソン・リー

シネマ365日 No.2162

「他とちがう」リサ

チャーリー・カウフマンって、「マルコヴィッチの穴」とか「エターナル・サンシャイン」の脚本を書いた人ね。彼がデューク・ジョンソンと組んで本作を作ったってこと、それだけで「やばい」感覚が上昇してくる(笑)。ストップ・モーションのアニメ技術はそら、卓越していると思うわよ、思うけど…日本人は古来、人形浄瑠璃や文楽で、操り人形はおなじみの世界だし、人形が人間の所作を行う技術にしても、専門の高度な技術者の操りにかかれば、たちまちそこは虚無妄想の別天地が展開する、という文化は刷り込まれ済みなのよ。「アノマリサ」のマペット技術で驚愕は、ンま、性器やトイレや、特にベッドシーンまで濃厚に表現したこと(R15指定)、食べるシーンで咀嚼する口の中まで映し出したことね。すごい、の一言に尽きるわ。それだけで「アノマリサ」は、見ていくうちにだんだん気味悪くなってくるのに、もうひとつ、おそらくこれが本作の真骨頂だろうと思うけど、物語そのものがハイレベルなのです▼監督が変わった人だからね、きっと(笑)。これまでも夢の記憶消去とか、マルコヴィッチの脳に侵入するとか、彼の妄想映画でさんざん振り回されたけど、どれもあまりにまことしやかで、結局最後までついていって面白がっている自分に気づくのよ。人間の心理と連携する人形の繊細な表情も特筆モノです。主人公マイケルは優秀な販促プロデューサー、各地で講演会を開き著書もある。やってきたのはシンシナティだ。彼は憂鬱になる。元カノと別れた街だし、彼女は今も住んでいる。それに彼には人に言えない病気があった。極度のストレスがそうさせると言われる、人の顔がみな同じに見える症状なのだ。妻も子供も、道行く人も、顔も声もみな同じ。自分以外はみな同じ。博物館で展示物を見ているようで、自分以外の生きた他人といるという実感がない。人形を使ってだから(ふうん、そうなの)で済ませておられるけど、これはわたしたちの現実社会にも当てはまるのね。人とコミュニケーションが取れず、彼や彼女の心の中が理解できなくて、存在や言葉に感動できず、みなツライチに見える。日々変化するのは情報の洪水だけで、晒されて流されているうちに、刺激を忘れ、反応もできなくなっている。しかも受け止める自分は、それに気がついているかいないかは別として、立ち止まる必要を感じていない▼そう思い出すと、無表情なたかが人形の顔が、いやに複雑で、表情豊かで、動作の一つ一つ、言葉の一言一言に、マイケルの内面を刻印している、ように見えてくる。こうなるともう「アノマリサ」の術中にはまったのと同じよ(笑)。マイケルはかなりエゴイストで、家族から冷たくあしらわれているが、それも自業自得みたい。子供たちは懐かないし、妻はヨソヨソしい、だけでなくつっけんどんで、亭主に感謝のかけらもなさそう。でもそうなるのはマイケルが口やかましく、自分のことばかり押し付けすぎるからだと後でわかってくる▼同じ声でない女性の声がドアの外で聞こえ、マイケルは飛んでいってドアを開ける。リサともう一人の女性がいて、明日あなたの講演を聞きに行くつもりだとかいう。マイケルは嬉しくなって飲みに行き、リサと意気投合して、部屋によっていかないか、君には悪いけど、とリサの友だちを帰らせる。露骨な男ね。リサは自分に自信の持てない女性で、男と幸せな交際をしたことがないと打ち明ける。マイケルはそんなことはないと躍起になって慰め、初めて聞いた女性の声にうっとり、ベッドに誘い感動の一夜を共にし、翌朝プロポーズ。しかし朝食の席で「口に食べ物を入れたまま喋るな」と、みるみる不機嫌になった途端、リサの顔がいつも見る同じ男の顔になり、マイケルはぞっとする。女は興ざめして「じゃ、後ほど講演会で」といってバイバイ。会場で講演を始めると、聴衆はみな同じ顔でマイケルを見つめている。恐怖のうちに帰宅すると出迎えた妻も息子も同じ男の顔。マイケルの無限地獄に救いはない。おまけにマイケルが息子のお土産に買った日本人形が、殺人現場のような頭と胸の欠けた人形で、「モモタロウさん、モモタロウさん」と歌いだす。なにこれ、操り人形にかけては洗練の極みである、日本の浄瑠璃文化をバカにしていない?どうして「モモタロウ」なのよ▼マイケルとは、人がそれぞれ備えている個々の違いを見分けられなくなった人なのね。他人を尊重せず、変化や違いに面白さや価値を見出せない。情報は腐るほど手に入るが流し込まれるだけで、自分なりに消化し別のものにアウトプットする能力が磨滅してしまった、こういう人が増えていくのでしょうね。そうそう、アノマリサとは「他とちがうリサ」という意味ですって。

 

Pocket
LINEで送る