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特集「ディーバ(大女優)」

2017年7月2日

特集「ディーバ15」ジュリアン・ムーア②
ハンズ・オブ・ラブ/手のひらの勇気(下)(2016年 事実に基づく映画)

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監督 ピーター・ソレット

出演 ジュリアン・ムーア/エレン・ペイジ/マイケル・シャノン/スティーヴ・カレル

シネマ365日 No.2164

鬼気迫るジュリアン

特集「ディーバ15」ジュリアン・ムーア

ローレルはガン末期だった。治療のためデスクの整理に来た彼女を、相棒の刑事デーン(マイケル・シャノン)が言葉もなく見つめる。「ゲイだということをなぜ俺に隠していた、俺たちはお互いが命綱だ、銃撃戦になったとき、君の状態を俺は知っておく義務がある。俺を信用してないってことだ」とデーンは詰め寄ったことがある。「ばれたら現場から外され事務職に回される。あなたは白人の男でストレート。私はスタートラインから違うの」「君は虐げられたマイノリティか」「そうよ」。ローレルはデーンに頼む。「万一のとき、私の遺族年金をステイシーに残したいの」「…夫婦じゃないと」。ローレルは郡政委員会に手紙を書く▼4人の委員のうち一人、ブライアン・キルダーだけが「我々委員にはパートナー法を拡大する権限がある」トレーシーの年金受給が合法であることを主張するが、他はこぞって反対。理由は彼らの嫌悪感としか言いようがない。ローレルは公開委員会に出席して訴えた。「私は勤務中、殴られたり蹴られたりしましたが怪我や死を恐れたことはありませんでした。仕事を愛しているからです。私の生存率は10%以下。この敵は倒せないかもしれない。どうか私の遺族年金をステイシーに。そうすれば彼女は家を売らないで済みます。遺族年金は配偶者が受け取るものです。でも相手が女性だとできません。23年間の刑事生活で初めての要望です。どうか平等の権利を」髪は抜け、体は痩せ、声はかすれている。それでもオーシャン郡行政は動かない。ここにきてデーンが男の処理能力を発揮する。訴えから攻撃に戦略を転換、同性愛者支援団体のリーダー、ゴールドスタイン(スティーヴ・カレル)と手を組む。カレルは闘争的だ。公開委員会に陣取り「君たちには良心がない。決定を覆さないなら大恥をかかせてやる」デモを連れて乗り込んだのだ。カレルはローレルを利用して同性婚の法制化を意図していた。強引なやり方を嫌がったローレルだが、カレルはいうのだ。「君らがパートナー認定なんかじゃなく、結婚していたらステイシーはすんなり年金をもらえた。君と結婚したら僕だってもらえる。世界を変えるチャンスだよ。君が残せる遺産だよ」。カレルはメディアを巻き込み、衰えたローレルを取材させ、大々的に支援に動いた。この男たちふたりが、まあホント魅力的なのですよ。デーンは「レズ女のためになんで俺たちの税金を使う」横を向いている警察の同僚に「立場が逆だったら彼女は仲間のために動いた。公開委員会に出席してローレルの味方をする奴はいないのか。根性なし!」▼二度、三度、却下は続く。ローレルの髪は全て抜け落ちスキンヘッドだ。残り時間は刻々消えていく。カレルの舌鋒が火を噴く。「正義のために戦ったローレルに正義を!」。ブライアンがふと漏らした言葉をデーンは思い出した。「年金を複数で受給している連中がいる」。彼は調べ上げる。それが郡委員会の委員たちだった。「お前たちのダブル受給をマスコミにばらすぞ」デーンは脅しをかけた。「誰が情報を教えた」狼狽する委員たちにブライアンはしゃあしゃあという。「私です。おや、秘密だったのですか?」。ついに委員会の尻尾をつかんだ。公開委員会の当日。若い警官が黙って上着を着た。「どこへ行く」と訊いた本部長に「同じゲイとしてローレルを応援します。文句ありますか?」沈黙した同僚を無視し、彼は持ち場を離れる。本部長がいう。「俺はこれからオフィスに閉じこもる。誰がどこに行こうと、俺は気づかん」▼ステイシーが押す車椅子で会場に来たローレルのかすれた目に、近づいてくる男たちが映った。制服組も事務職もいた。「やっと来たか」デーンがニヤリ。車椅子の後に続く男たちの行列は、完全に「健さん」モードである。会場にはブライアンの娘が来ている。「パパがいじめているあのふたり」と娘はパパを責め、パパは閉口していたのだ。これが最後の公開委員会になった。細い声でローレルはいった。「私は変化を求めています。委員会の皆さん、もう時間がありません」ステイシーが訴えた。「あの家を愛の思い出として持ち続けたい」。委員長が決を採る。ブライアン、もとより「賛成」。残るふたりは会場の空気に威圧され「賛成」。満場一致「可決します」。デーンもカレルも、警官も、新聞記者も、ローレルの妹もステイシーの母親もブライアンの娘も、支援団体も湧き上がった。壁は崩れたのだ。ニュージャージー州議会はパートナー法を改正し、全公務員の同性パートナーに年金支給を認めた。ローレルの死から7年後の2013年、ニュージャージー州では同性婚が合法化された。2015年6月26日、米連邦最高裁は全米で同性婚を合法とした▼ローレルはオーシャン郡初の女性警部補に昇進した。ステイシーは虫の息のローレルにささやく。「結婚してくれる?」苦しい喘声の下から「ええ」と聞こえた。鬼気迫るジュリアン・ムーア。そして共に立ち上がった男たちにしびれました。

 

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