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特集「遥かなるミルキーウェイ/7月のベストコレクション」

2017年7月17日

特集「遥かなるミルキーウェイ/7月のベストコレクション」④
胸騒ぎのシチリア(2016年 恋愛映画)

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監督 ルカ・グァダーニ

出演 ティルダ・スウィントン/レイフ・ファインズ/ダコタ・ジョンソン/マティアス・スーナーツル

シネマ365日 No.2179

ティルダが喋らない

特集「遥かなるミルキーウェイ/7月のベストコレクション」

「語り」つまり声の表情だけで聞かせる女優を3人挙げろといわれたら、シャーロット・ランプリング(「雲」)、ジョディ・フォスター(「ブレイブ・ワン」)、そしてティルダ・スウィントン。故人を含めたらオードリー・ヘプバーン(「ロビンとマリアン」)ね。ティルダの静かな声と語りが好きで、彼女がナレーションを受け持ったドキュメンタリー映画「ガラパゴス」三部作を買いこみ、一昼夜トカゲやら海鳥やらカモメやウミガメとつき合ったのよ。それが、え、なんですって。この映画、声帯手術をして声が出なくなったロック・クィーンがティルダですって。いや待て、そうはいっても完全黙秘ではないかもしれない…気をとりなおした。おかげで「低い声なら出せるの」と断ったティルダが、ボソボソ風邪ひき声で内緒話をするシーンがわずかにあった。一箇所だけ大声を張り上げる場面も。元カレの死体を発見したティルダが「ぎゃ〜」とやる。「叫んではいけません、奥様、喉が潰れます!」とお手伝いさんが止めるのだけど、所詮「ぎゃ〜」よ、「語り」でもヘチマでもないわ▼自分がそそっかしいせいだとわかりつつ、映画を見ながら不機嫌にならざるをえない。おまけに(といっていいかどうか)「太陽が知っている」のリメイクらしい。1969年の映画だ。配役の置き換えは、ヒロインのロミ・シュナイダーにティルダ、アラン・ドロンにマティアス・スーナーツル、モーリス・ロネにレイフ・ファインズ。ジェーン・バーキンにダコタ・ジョンソンだ。みな毒気が足りないわ。プールで死ぬのがレイフ・ファインズよ。ティルダを捨てておいてヨリを戻しにくるプロデューサーの役。終始テンション高すぎて歩く騒音と化したお化けぶりだ。イカレたついでにもう一度「あの人」ヴォルデモートにでもなればどう? 彼の娘で登場したダコタ・ジョンソン。ティルダの若い恋人を誘惑するのだけど、妖しさを作り過ぎて、何も考えない、かつてのジェーン・バーキンの天然ぶりに負けそうだった▼ティルダがいつもの悪趣味の変装・変身ではなく、終始マトモな風体で演じます。監督は「ミラノ、愛に生きる」で、ティルダを美の化身にしたルカ・グァダニーノですもん、ティルダにホームレスみたいなナリをさせるくらいなら、この監督は殺してしまうでしょうよ。おかげでティルダは抜けるような青空と海、白い壁、遺跡や古代の街路をバックに、ディオールを着こなし、白いバルーンスカートを爽やかにシチリアの風になびかせる。ここは文句つける気、なかったですね。役柄とはいえティルダらしいと思ったのは-元カレのレイフ・ファインズがプールで溺死し(実は今カレのマティアス・スーナーツルに殺された)、ティルダとダコタが警察に呼ばれる。ティルダが出にくい声を振り絞り、ダコタに怒りをぶつける。「17歳ですって。22歳といったのに高校生だったのね。イタリア語も流暢に喋れる。なぜウソを。みながコミュニケーションで苦労しているときに黙って見ていたのね。人が苦しむのを見ているのが好きなの? そんな女になりたいの?」「私は一人が好きなだけ」「私はあなたの敵じゃなかった。みんなもそうよ」「深く考えないで」そううそぶく無神経ぶりに、ティルダは横ヅラをぶんなぐる。思い切り殴っていましてね、生真面目なティルダによくあったシーンだと思った。キラキラのステージ・コスチュームを着て、ますますデヴィッド・ボウイと兄妹みたいになっていました▼本作は「太陽が…」の、犯罪者たちの暗い未来を暗示させるラストではなく、気が抜けるようなおめでたさで終わります。これもシチリアの太陽と海と空気と光のせいか。ずっこけた「異邦人」みたいになっていたわね。ティルダはほとんどスッピンです。それが感じいい。要は、人間そのものがエレガンスなのよ。喋らなかったことは、まあいいってことにするか。

 

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