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特集「最高のビッチ」

2017年8月10日

特集「最高のビッチ3」⑩イザベル・ユペール
キューリー夫妻その愛と情熱(上)(1998年 伝記映画)

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監督 クロード・ビノトー

出演 イザベル・ユペール/シャルル・ベルリング/フィリップ・ノワレ

シネマ365日 No.2203

あなたの頭脳とわたしの馬鹿力 

★08-11_最高のビッチ3-3

再びイザベル・ユペールです。この人、どういうわけか気難しい監督に好かれる女優でして、クロード・シャブロルのほか、複雑なあまり眩暈を覚えるような、ミヒャエル・ハネケの諸作品のミューズです。「ピアニスト」のブノワ・マジメルのセリフがイザベルにぴったり。「その知的な顔でいうことはクソかよ!」。そのイザベルがキューリー夫人をやる。勝手にわたし「キューリー夫人、ナイチンゲール、ヘレン・ケラー」を「教科書三大聖女」と呼んでいます。偉人伝あるいは中学までの教科書に彼女らは必ずと言っていいほど登場するビッグ・ネームです。常人離れした女性たちだったに違いない。イザベルには不思議とこの常人離れ、はっきりいうと「狂気の女性」役がついてまわります。「ブルー・ジャスミン」も充分おかしな女性を扱っていましたが、彼女のケースは病気(妄想癖)であって、正気の中に狂気が跋扈跳梁している、地獄図的なものではなかった。マリー・キューリーの場合は妄想などではない。科学史を変える人類の大発見に、喜々として挑む「恐るべき子供」でした▼19世紀末、パリ物理化学工業学校にポーランド人の若い女性マリーが助手見習いで入ってきます。教室にいるのはピエール(シャルル・ベルリング)とその同僚ギュスターブ。二人とも教授とは名ばかり、講義に追い回され、研究の実験に専念する時間がない。研究とは何あろう、校長のシュッツ氏(フィリップ・ノワレ)が、ウラン発光の謎を3か月で解けと無理難題を吹っかけているのだ。彼はアカデミー会員としての名誉と、宿敵ケンブリッジをへこます業績が欲しい。俗物といえば俗物ですが、それだけの男ではない、遅々として発見に至らない新元素に、業を煮やしたアカデミー会員を向こうに回し、一身を賭してピエールとマリーをかばうのも彼なのです▼それでなくとも予算を削られているのに、これ以上世話の焼ける見習いなどいらないという、二人の言葉を小耳に挟んだマリーはドアの前に立ちふさがる。「わたしを追い出すならここで服を破いてあなたたちを訴えるわ。本気よ。ロシア人将校をシベリアに送ったこともある。学問のために10年間子守をしたのよ。フランスに留学するために死に物狂いだった。わたしの邪魔は許さない。わたしはここにいたいだけなの。研究をご自分の手柄にしたいなら、発見者の名誉は譲るわ」。見習い職を勝ち取ったマリーは、言われもしない仕事をなんでもやった。窓ガラスを拭く、答案の採点を手伝う、しかしながら空腹で目を回したマリーを、ピエールはレストランに連れていく。そこでウェイトレスをしていたジョルジョットがのちキューリー家の家政婦になる。「なぜ科学者の道に?」とピエール。「知的関心に加え、社会と物質文明の進歩のためです」とマリー。明るく積極的なマリーにピエールは惹かれ、結婚してマリー・キューリーになれば強制送還もなく、安心してフランスで勉強できると口説いた。研究の進展をヤイヤイ催促してくるシュッツにマリーは「先生に受勲させます。3か月以内に」。あっけにとられるピエールに「あなたの頭脳とわたしのバカ力があればできないことはないわ」団結は力なり。二人はウランの持つ固有の性質、太陽光とは無関係にX線を放出することを証明し、それを放射能と名付けました▼映画はしかし、天才が生まれながらにして持つ性格の「歪み」のようなものもきちんと描いています。一人娘の家政婦がジョルジョットだ。親身になって娘(イレーヌ)の面倒を見、研究にのめり込むマリーを心配する。「どうしてもわからない」とつぶやくマリーに「話せば気がラクになるわ」とジョルジョットがいう。「あなたに?」言外に侮りを聞き取ったジョルジョットは「わたしには話せないの。わたしが無学だから?」「いいわ」マリーは独り言のように語りかける。「このウランは金属なの。つまり鉛みたいに鉱山で取れる。100年以上前に発見されたの。最近ウランと金属の違いに気づいた。ウランは電気とともに強い光を出す。理由はまだわかっていない。それがウランの性質だと確認したにすぎないの。無生物の活動は火山や雲のように物理的な活動か、化学の活動よ。言っていること、わかる?」ジョルジョットは質問した。「茹でたジャガイモは?」「物理的な現象よ」説明してやりながらマリーは自問自答する。「これはオーストリア産の瀝青鉱という岩で、ウランを含んでいるの。砂粒もね。ところが岩とウランの混合物の瀝青鉱のほうが、同じ質量の純粋なウランより放射能が多いのよ。説明できないわ」ジョルジョットがあっさりいう。「未発見の何かがあるのでは。多分不純物のあることが異常の原因でしょう」。ピエールとマリーは顔を見合わせた。「やってみよう。ウランを除いた瀝青鉱からウラン以上の放射能が検出されれば新発見だ」。「じゃ、これで」とジョルジョットは台所に引っ込んだ。マリーは「ありがとう」でもなければねぎらいの声もかけない。配慮にはほど遠い態度です。

 

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