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特集「ダンディズム-dandyism-」

2017年8月18日

特集「ダンディズム4」⑦ヒュー・グラント
マダム・フローレンス!夢見るふたり(下)(2016年 事実に基づく映画)

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監督 スティーヴン・フリアーズ

出演 メリル・ストリープ/ヒュー・グラント/サイモン・ヘルバーグ/レベッカ・ファーガソン/ニナ・アリアンダ

シネマ365日 No.2211

フローレンス、歌って! 

★16-18_ダンディズム4-2

本作のダンディズムは男たちだけではありません。とびきりの男前がいます。フローレンスのコンサートに初めて来たアグネス・スターク夫人(ニナ・アリアンダ)です。夫のスタークはシンクレアに言い含められていますから万事承知していますが、新しい妻のアグネスはフローレンスの歌を知らない。並はずれな音痴ぶりにたまらず、床を這うようにして部屋を転がり出、抱腹絶倒します。「あんなドベタな歌手は見たことがない!」。書き忘れていましたが、本作の時代は1944年、第二次世界大戦の最中です。フローレンスはカーネギーホールでコンサートを開き、帰還兵のためにチケットを1000枚を贈ると決めます。コンサートは10月25日。シンクレアは「君は病弱だ。命がけだぞ」と止めます。フローレンスが答える「死と背中合わせに50年生きてきたの。いつ死んでもおかしくなかった。生きがいを見失い、それでも生きようと闘ってきた。まだ生きているわ。絶対ここで歌う」▼シンクレアは腹をくくります。コズメに「あざ笑う連中を25年間閉じ込めてきた。悪意に満ちた連中だ。フローレンスは僕の人生だ。カーネギーホールで歌うのが夢なのだ。実現させたい。伴奏してくれ。夢のカーネギーホールだぞ!」コズメも度胸を据えた。フローレンスにやさしくいった「うまく歌えますよ。ふたりでやりましょう」。フローレンスは勇気百倍。肌身離さず持ち歩いているブリーフケースを持ってこさせ「遺言書を書き換えるわ。あなたに少し、残したいの、コズメ」。幕の上がる日が来た。会場は帰還兵で満員だ。フローレンスが歌い始めると、たちまちヤジと嘲笑が乱れ飛んだ。「やめろ、ドベタめ、猫のほうがマシだ、逮捕しろ、警察を呼べ!」そのときだ、最前列にいたアグネスが立ち上がる。後ろで喚く帰還兵たちにやり返すのだ。「静かに! 力の限り歌っているのよ。猫ですって? よくもいえたわね。恥を知りなさい。声援も送れないの。声援を送るのよ、ブラボー! さあ、みなさん、立って。ブラボー。フローレンス、歌って!」一人が声を張り上げた「ブラボー!」やがて津波のような声援が満員のカーネギーホールにどよめいた「歌ってくれ、歌ってくれ」「力に引き込まれる」▼アグネスは歌の上手下手ではなく、フローレンスのスピリッツがわかっていたのだ。「よくやった」夫がねぎらった。だが彼には翌日の大仕事があった。会場に来ていた批評家の一人が、あれが歌かと言い捨てて出て行ったのだ。その新聞はデカデカと酷評していた。シンクレアは買い占めるとゴミ箱に放り込み、次々ショップを回って回収した。フローレンスは事実を知る。「みんな私を嘲笑していたのね」落ち込む妻に「僕はそうじゃないよ。君の声は真実の声だよ」「もう二度と歌わない。あなたのため以外は。あなたと私だけ。愛しあえなければ死にましょう。この愛を貫くために。ひどい声だと非難されても、歌った事実は消えないわ」「ブラボー」…いい夫婦ですね▼1944年、フローレンスは76歳で人生を閉じた。明らかに才能がなくても、くじけることなく楽しさと喜びを糧に頑張った。シンクレアもコズメも簡素に生きた。フローレンスが友人へのクリスマス・プレゼントのために、私製で作ったレコードはベストセラーになった。カーネギーホールのアーカイブの一番人気は今でもマダム・フローレンスだ。

 

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