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特集「タイムレスな女優」

2017年8月23日

特集「タイムレスな女優2」⑤スーザン・サランドン
マダム・メドラー(2015年 日本未公開)

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監督 ローリーン・スカファリア

出演 スーザン・サランドン/ローズ・バーン/J・K・シモンズ

シネマ365日 No.2216

ともに見る海の夕焼け

★23-27_タイムレスな女優2-2

本作のスクリーンで見るスーザン・サランドンの表情は、人まちがいかと思うほど穏やかで、のんびりしています。シャープでとんがった通常の彼女の面影もない。演技力ってこういうものをいうの? 身振り素振りではなく、人格とか、人間とかいうレベルで別人になってしまうこと? ついそう思いたくなるほど、この映画ってスーザン演じる「母もの」の王道です。夫に死に別れたマーニー・メドラー(スーザン・サランドン)は、一人娘のロリ(ローズ・バーン)が生きがい。ニュージャージーからはるばるロスに、脚本家として独り立ちした娘に会いにやってくる。人付き合いの好きなメドラーは、ご近所の主婦たちとの情報交換、イベントの参加、病院のボランティアなど、何一つ面倒がらずこまめに世話を焼く。親切だからたちまちみんなに好かれるようになった。ただ一人、ロリだけが母親が過干渉だとつっけんどんに扱う。彼女は彼と別れたばかりで目下情緒不安定、セラピーに通おうとしたら母親が先に予約を取ってしまった。「わたしにかかってくる電話の80%がママよ。男でもなく仕事でもなく友達でもなく。こんな悲しいことってある!」▼ママは愚痴る。「ロリっていつも怒っているの」恋人に振られたから不機嫌で世の中が面白くないのだ。ロリはママと入れ違いに、撮影のためニューヨークに出張。せいせいしたように出発の準備をする。ママはお金持ちだ。パパが一生心配のない財産を残してくれた。ご近所の友だちジリアンが同性婚でやっと結婚式を挙げられると知り、ママは心から祝福する。口だけでなく、船を貸し切り、イブニングドレスまで気前よく買ってあげるのだ。大胆な散財ぶりに、カウンセラーは「マーニー、ひょっとしてお金の使い道に困っているの? お金を使うことで人に必要とされたいとか、ジリアンは娘の代替?」▼マーニーのこだわりのなさは評しがたい。彼女は孤独? とんでもない。娘は無愛想だしつっけんどんだが、母親との絆を疑っていない。マーニーもそれがわかっている。世の母親なら誰しも頷ける母娘の情愛を、ローリーン・スカファリア監督は自然な流れのなかで捉える。それもそのはず、マーニーのモデルは監督の実母で、女優はスーザンに演じてほしいと思っていた。要望を聞いたスーザンは監督に会い「彼女の熱意を感じて引き受けた」というから始めから息が合っているのだ。ならばマーニーは世話好きの人のいい主婦か。でもない。彼女がときとしてひとりで眺めるロスの夜の噴水は、とりとめのない女ひとりの生活そのものだ。水を噴き上げ、噴き上げた水を受け、その水をまた噴き上げて夜が流れていく。このシーンのスーザンの後ろ姿は絶品である。こういう洗練された女優があえてこしらえた「お人よしの顔」だから、この映画は見るに値するのだ。もともと何もない女優だったらホラーではないか▼ロリが妊娠した。ロリは泣く。「この年で中絶はできない」。ママは自分が付いている、心配いらないとやさしくロリの髪を撫でる。「なにいってンの、ママ、わたしは嬉しいのよ!」ママはもう一度娘を抱きしめる。検査の結果陰性だった。娘はまた泣く。娘を見るママの表情は(もう、どっちでもいいわ)と達観している。娘を愛してはいるが振り回されてはいない、落ち着いた愛情深い母親であることを思わせる。マーニーのボーイフレンドになるジッパー(J・K・シモンズ)がいい。「人間にはイヌ派とネコ派がいて、俺はニワトリ派だ。俺とニワトリは共存している。名前は(ト、ニワトリたちを示し)「パッツィにヘンリエッタに、キャスリーンだ。ラジカセで音楽を流したら機嫌がいい。幸福度と生産性が最高に上がるのはドリーの歌だとわかった」。ジッパーは定年退職した元警官で、別れた妻との間に娘がいる。長い間音信不通のまま過ごしてきた。「お節介だけど電話したほうがいいわ」とマーニー。「話すことがない」とジッパー。「何があろうと愛していると言えばいいのよ。父親の愛は言わないと伝わらないわ」。ある日その通りいったら「娘に怒鳴られた。会いに行って顔を見て怒鳴らせてやろうと思う」こういうセリフがしびれさせるのよ▼ジッパーのハーレーに乗ってロス沖の夕焼けを一緒に見る。年をとればとるほど人は身軽ではなくなる。いろんな思い出が絡み付いて、思いの層が重なり、自分だけの地層を作っている。それは、だから幸福であるとか、だから不幸であるとかには関係ない。ただ目の前にあるものを愛せば、道は通じるのだ。マーニーのこだわりのなさは、実は深いこの諦観から生じているのではないか。

 

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