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特集「タイムレスな女優」

2017年8月27日

特集「タイムレスな女優2」⑨カッチャ・リーマン2
ローゼンシュトラッセ(2003年 事実に基づく映画/日本未公開)

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監督 マルガレーテ・フォン・トロッタ

出演 カッチャ・リーマン

シネマ365日 No.2220

離婚はしない。夫を返して! 

★23-27_タイムレスな女優2-2

続いてカッチャ・リーマン主演作。なんで二作続けてかというと、こういういい女優といい映画が、少しも日本で知られていない腹いせです(笑)。未公開ですよ、未公開。監督がマルガレーテ・フォン・トロッタときます。言わずもがな、これまでヨーロッパの数々の映画賞をさらってきた「最強のふたり」です。カッチャは本作でヴェネツィア国際映画祭女優賞を獲得しました。冒頭、静かに字幕が出ます。「1943年2月27日〜3月6日。ローゼンシュトラッセでの事実」。ローゼンシュトラッセとはユダヤ人仮収容所のあった、通りの名前です。ヒロイン、レナ(カッチャ・リーマン)は役所でナチ高官に嘆願している。「夫の居所を知りたいのです。いきなり家に帰ってこなくなりました」高官は苦慮しながら「あなたはドイツ人の血を引く貴族の古い家柄です。あなたの父上に恥をかけたくない。離婚の手続きはすぐできます、旧姓に戻ればいいのです。フォン・エッシェンバッハ嬢」「結婚して10年、離婚しません」「ならばユダヤの娼婦に情報は与えません」▼ユダヤ人の虐殺を断行したナチス・ドイツでも、ドイツ人女性と結婚しているユダヤ人男性=異人種間結婚の問題があった。妻たちの夫が移送・虐殺となれば妻側のドイツ人家族から反発を招き、反ナチ運動に発展する恐れがあったからだ。スターリングラードの陥落以後、ドイツ軍は劣勢に陥り、さらなる混乱は避けたかった。夫たちが収容されている建物の前に、妻たちは立ち続け、釈放を訴える。ある時は叫び、ある時は無言で。ベルリンの二月は極寒だ。雪の残るシュトラッセで、夜通し立つのだ。少女ルースは母親がユダヤ人だった。彼女も母親を待っていたが、居合わせたレナが「凍えてしまうわ。私の家にいらっしゃい」と連れて帰った。聞けばドイツ人の父親はユダヤ人である母親と離婚したというのだ。レナは孤児になったルースをそのまま住まわせた。フォン・トロッタ監督は、石畳の頑丈な道路、灰色の無骨なビル、たれ込める雪雲が空をおおい、日の射す時間が少ないベルリンの市街、粗末な衣服をかき合わせる主婦たちの出で立ちに、希望も未来もない状況を雄弁に語らせます▼時間軸が入れ替わり現代のニューヨーク、生き延びて米国に渡り、年老いたルースが娘ハルの結婚に反対している。理由は男が外国人だからだ。ルースの母親はローゼンシュトラッセから帰ってこなかった。だからルースからは、否ユダヤ系である娘の恋人が、何かあったとき、娘を裏切るに違いない、という不安が去らない。しかしハルにはなぜ母親が結婚に反対するのかわからない。詳しい過去を母親は何も話そうとしないからだ。ハルはベルリンに飛びレナを探し出した。ルースの娘であることを伏せ、ハルはあのとき、ローゼンシュトラッセで何があったのか知りたいと尋ねる。レナは追想を語っていく。監督の巧みな導入によって、映画にミステリアスな空気が漂ってきます▼「夫を返せ、夫を返せ」と路上で声を上げる妻たちに業を煮やしたナチスは、軍を出動させて鎮圧する。鎮圧と言っても無抵抗な女たちをシュトラッセの隅に押し戻すだけだが、女たちは頑強に抵抗し、レナは隙を見て建物に潜り込もうとする。失敗した。次なる手はベルリン大区長・宣伝大臣ゲッペルスへの直訴である。レナには東部戦線から負傷して帰ってきた兄アルトゥールがいた。彼はドイツの敗戦を読んでいた。彼は騎士十字章を佩用し、負傷した脚を引きずり義弟の釈放をゲシュタポ本部に訴えた。次に彼が考えたのは妹の家柄と美貌を利用することだった。ゲッペルスが出席するパーティにレナを連れて行き、ピアノを弾かせた。忘れていたがレナはピアニスト、夫はヴァイオリニストの音楽家夫婦だ。レナの女友だちが歌う恋の歌に乗じてレナはピアノを弾きながらゲッペルスに色目を使い、ことは運んだ。夫たちが拘束されて1週間目に奇跡が起こった。動こうとしない女たちに、軍はついに機関銃の一斉掃射を決めた。そこに一台のジープが到着し、責任者に耳打ちする。さっと手が振られ機関銃は撤去、軍人たちはあっという間に建物に消えた。なにが起こったのかわからない女たちの前に、1800人が閉じ込められていた、収容所の分厚いドアが開いた。一人、二人、ヨレヨレの男たちが姿を現わす。レナの夫もいた。釈放だった▼歴史の大舞台で語られることのなかった、異人種結婚という、ホロコーストの一局面を衝いた傑作です。無抵抗、非暴力で立ち向かった女たちの勇気と、ゲッペルスをも動かしたレナの男前なこと。兄にドレスの着替えを手伝わせながらレナは泣いていましたが、もちろんタダでゲッペルスがいうこときいたわけじゃないでしょう。兄貴もえらいよね。効き目があると思ったら勲章でも松葉杖でも利用するのだから。電話でしゃべったハルのドイツ語に英語訛りがなかったとレナが指摘すると「母はドイツ人です。母は、実の母から受け継いだ唯一のものが言葉だったから、私に訛りのないドイツ語を受け継がせたのです」。ここ、なぜか泣けました。ベルリンから帰国したハルから、レナの話を聞いたルースは結婚を承諾する。ハルは否ユダヤ系婚約者と、ユダヤ式結婚式をニューヨークの実家のアパートの前であげる。いい映画だったけど、要は、本作の夫たちは初めから終わりまで女に助けられたわけね。これが逆だったらって? 現に夫たちはユダヤ人の妻をさっさと離婚しているじゃない。いや、男のことばかり言えないかも。今じゃローゼンシュトラッセの妻たちと、同じことをする女房は何人いるかしら。

 

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