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特集「タイムレスな女優」

2017年8月30日

特集「タイムレスな女優2」⑫ニコール・キッドマン2
アラビアの女王 愛と宿命の日々(上)(2017年 事実に基づく映画)

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監督 ヴェルナー・ヘルツォーク

出演 ニコール・キッドマン/ロバート・パティンソン

シネマ365日 No.2223

砂漠の力 

★28-31_タイムレスな女優2-3

冒頭、イランとシリアに国境線を引く判断にチャーチルが頭を抱えている。第一次大戦の勃発により、中東を500年にわたって支配したオスマン帝国の崩壊が早まり、植民地保有国は戦利品の分割を狙っていたのだ。ロシアがダーダレス海峡を取り、フランスは全てに文句をいい、英国はシリアとレバノンを放棄。シリアはスンニ派、シーア、アラウィー、ドルーズ派、北にクルド族、こんな厄介な土地は手がつけられない、紛争に巻き込まれるより、フランスに対処させましょう、などと官僚が言っている。ベドウィンの全ての部族、相互関係、敵対関係、未来の王を決めるにあたり候補者たちを誰よりも知っているのは誰だとチャーチルが訊く。「あの女しかいない。愚かな女です。図々しいうぬぼれ屋で、男のなり損ない。尻を振って世界をほっつき歩くバカ女」それが本作のヒロイン、ガートルード・ベル(ニコール・キッドマン)でした▼裕福な家に生まれ、オックスフォードで現代史を学び首席で卒業、社交界の「品定めパーティ」をバカにし、父親に「こんなところにいたくない」と膝にすがって訴える。父親がまた娘に甘く、妻の弟が領事をするテヘランに行かせる。ここで三等書記官ヘンリー(ジェームズ・フランコ)に会う。詩を読み、歴史を語り、フェミニストであるヘンリーはそれまでの、女を付随品とみなす中身空っぽの男たちと全然違った。たちまち恋に落ちる。しかし父親は烈火のように反対、会って直接説得するとガートルードは帰英する。ヘンリーとは「賭事に溺れ借金まみれの男だ。許さん!」。お父さんが正しいわ。ヘンリーという男性、詩だか、なんだかを口の中でボソボソいう、とてもロマンティックな男なのだけど、金銭に潔癖でない人間は何をさせてもダメ、そう父親は見ている。正解よ。ガートルードは、大学は首席でも、男にはネンネだったのね▼傷心のガートルードは考古学の研究のため砂漠に行くことにする。ニコール・キッドマンはガートルードが砂漠に惹かれた理由を喪失感としています。かもしれない。ガートルード自身、砂漠に救済を求めたと言っているしね。でもそれだけか。彼女は12年にわたって砂漠にのめり込む。喪失の埋め合わせというにはあまりに情熱的だ。大学でも男でも得られなかったものが砂漠で得られたと思うしかない。喪失を埋めてなお倍する豊かさと激しさが。日記にこう書く。「来る日も来る日も、ひたすら前に進み、慣れた手つきでキャンプを張る。砂漠の奥に入り込めば入り込むほど、全てが夢のように思えてくる。死海の東ワディ・ムジブの渓谷を探検したことも。砂漠にあれほど澄み切った水の流れがあるとは。砂漠の迷宮の奥へ行くほど、自分自身が見えてくる」結局これだったのよ。打ち込むものがなかった、虚しかった彼女の強烈な自我が、やっと歯ごたえのある対象にぶつかった。スケールの大きさ、奥の深さ、人間を拒否する厳しさと美しさ、見る限り果てのない砂と空と太陽の世界。インチキな付け焼き刃の知性や、借り物の学問も文学も粉砕してしまう。砂漠の民にしてガートルードの忠実な、賢い従者ファトゥーフが渓谷で発見した槍の穂先を見て、ガートルードは「新石器時代の槍の穂先よ。1万年前の」。彼は否定する。「ありえない。太古もここは楽園だった。人々が正しく生きれば再び楽園が訪れる。楽園には時代も時間も決まった場所もない」。ガートルードはこんな宇宙規模の事物の捉え方、人間に大きな視野を持たせる砂漠の力に感動したのです。

 

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