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特集「意外な代表作」

2017年9月7日

特集「意外な代表作」⑦ アリシア・ヴィキャンデル
ピュア 純潔(2010年 日本未公開)

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監督 リサ・ラングセット

出演 アリシア・ヴィキャンデル

シネマ365日 No.2231

アリシアのデビュー 

★06-10_意外な代表作

デビュー作は作家の処女作と同じ、読んでみるもの、見てみるものね。本作のアリシア・ヴィキャンデルを見ながら、これじゃオスカーも取るだろう、映画賞もさらうだろう、遠からずスクリーンを席巻するだろう、先発大女優の脅威となるだろう、自然とそんな気がしました。リサ・ラングセット監督はアリシアともう一作「ホテル」をとっています。アリシアの大物ぶりを最初に見てとったのはラングセット監督ですから、多分ウマが合うのでしょうね、三作目にエヴァ・グリーンを迎えて、二人が姉妹役を演じる「ユーフォリア」の撮影に入っています。本作のヒロイン、カタリナは20歳。冒頭覚めた独白が流れます。「男を漁る日々をいつまでも続けておれない。ネットでモーツアルトを知った。1年前だ。以来男たちから離れた。淫らで醜い生活を彼らは今も送り続けている。でも私には関係ない。私は過去を捨て、別の世界に浮上するのだから。醜い現実からずっと確かな世界へ、美しい場所へと」▼「体を売るのもSNSを使うのもやめたわ。キレイに生きたくて。母さんは惨めね。私は母さんと違う」カタリナの母親への仕打ちはひどい。酒と薬でフラフラの母親に暴力を振るうこともある。荒んだ毎日だった。何気なく、扉の開いていたコンサートホールに入り、オーケストラの練習を見る。聴くというべきか。この映画ではモーツアルトの「レクイエム」、ベートーヴェンの「交響曲7番」の第2楽章が演奏される。ラングセット監督の好みだろうが、リハーサルの部分を丁寧に撮影しているので、そこだけでも楽しい。カタリナは面接の応募者と間違えられたのを機に受け付けに仮採用され、指揮者のアダムと知り合う。キルケゴールやグンナー・エケロフやカラヤンが普段の会話に出てくるアダムの教養と知的レベルに、テレビでゲームばかりしている同棲中のボーイフレンド、マチアスが物足りなくなってくる▼アダムと関係を持ったカタリナは、お定まりの展開でアダムに棄てられる。「僕は本物を受け入れる。本物は常に美しい。君は本物だ」「何が見える? 苦悩だよ。苦悩は人間を成長させるから、苦悩を忘れるテクがもてはやされるのさ。そうすればバカなやつだけを相手にできるからね」とまあ、若い女の子が聞けば託宣のように響く、衒学的セリフを四六時中言いまくったかと思うと、「妻がイタリアから帰ってきた。ここまでにしよう。君も楽しい思いをしたはずだ。ボーイフレンドとは別れた? 仲直りしろよ」ドッボーン、カタリナはドツボに真っ逆さま。思いきれず男の前に姿を表すカタリナに「今は君に嫌悪感しかない。わたしたちの恋は軽やかなものだった。音楽に似ていた。強くつかめば手の中で朽ちてしまう」それでも追ってくるカタリナに男は職場の解雇通告を与える。「あなたをもう追わない、だから仕事を取り上げないで」う〜ん、いつの間にかカタリナの中で、優先順位は男から仕事になっているのですが、遅かった。持ち場を離れず、デスクにしがみつくカタリナを警備員二人が引き離す▼コンサート本番の夜、カタリナはアダムの楽屋に忍び込んで待ち伏せする。売春して男を渡り歩いた、淫らでしたたかで、哀れであるが若さのエネルギーだけはしこたまある女を、アリシアがカッコつけず演じています。控え室のスピーカーからアダムの指揮する「7番」が聞こえてくる。アリシアの腕が、手が、指が音楽とともに自然に動く。ここのアリシアの腕のしなやかな動きが実に美しく、思わず、アリシアは指揮者デビューするオチではないかと勘ぐってしまった。演奏を終えたアダムが入ってきて通り一遍の別れのシーン、窓辺に座って(彼の癖です)一服するアダムをアリシアは突き落としてしまう。お母さんにだって蹴りを入れる娘ですから、激昂すると怖いのだ。アダムは墜落死。アリシアは現場から姿を消し、事故死とみなされ事件にもならなかった。アリシアは職場復帰する。正規雇用となり、大好きなクラシックが聴ける職場で、念願の企画担当となった。音楽への理解を深めるため、子供たちに生演奏を聴かせるのだ。テキパキ場内を指揮するアリシアは生気にあふれ、男を突き落とした犯罪の陰はない。いいのか、と思うが、まあ、男も男だったし、二人が不幸になるより一人でも幸福になるほうを監督は選んだのだろう。捨て猫みたいにボロボロになったカタリナが、入院中の母親のベッドに来て、抱きついて眠る姿には参ったね。

 

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