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特集「意外な代表作」

2017年9月10日

特集「意外な代表作」⑩ ペネロペ・クルス
ベルエポック(1993年 家族映画)

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監督 フェルナンド・トルエバ

出演 ペネロペ・クルス

シネマ365日 No.2234

日は昇り、日は沈む 

★06-10_意外な代表作

アカデミー外国語映画賞なのね、これ。のんびりしたスペインの田舎を舞台に繰り広げられる「ベルエポック」(よき時代)の映画。時代は1931年、王制から共和制に移行するスペインで、国民は自由を謳歌する時代を待ちわびていた。脱走兵のフェルナンドは、地方の町でマノロという画家と知り合う。彼には4人の美しい娘がいた。フェルナンドは一宿一飯の恩義に預かり、出て行こうとするが、帰省した4人姉妹の美しさに呆然。居残る。長女クララ、次女ビオレタ、三女ロシーオ、四女ルース。これがペネロペ・クルスで、彼女は18歳だった。正確には「ハモン・ハモン」がデビュー作だが、本作も一足違いの、ほぼデビュー作だ。フェルナンドは4姉妹全員から恋されるけっこうな男である。父親マルロの妻アマリアは歌手で、愛人のマネージャーとともに世界中を公演している▼スペインとはかくも捌けた国なのですね。陽気でくよくよせず、セックスは楽しんでナンボ、結婚は楽しいセックスについてくるもの、初めから固苦しく考えることはないとおおらかそのもの。フェルナンドは調子よく姉妹と愛し合い、結婚を申し込むが、長女ダメ、次女は「ありえない」、三女は別の「頼りないがいい人」を選び、結局4女のルースとゴールインする。何でこれがアカデミー外国語映画賞なのだろう。男にとって夢のように楽しい映画だからか。結婚に憧れる姉妹の中で次女のビオレタだけがトランスだ。彼女に犯されたのはフェルナンドのほうで、でも責任をとって結婚するという彼に、親父は「男とどうやって結婚するのだ」。長女が説明するには「ビオレタが生まれた時、男の子が欲しかった母は男の服ばかり着せて育て男の子として洗礼を受けたの。水兵の服がよく似合っていたわ」という簡単な台詞で処理され、それ以上踏み込んだ描写もない。一時が万事サラサラと、ひっついたの、くっついたので終始し、ルースは男が希望するアメリカへ旅立ち、姉たちは町に戻り、母親は愛人と世界公演に出発。田舎の村で年老いた父親は、娘たちと妻の帰郷を楽しみに静かな日々に戻る▼何が言いたいのだろう。人生は毎日がドラマチックではなし、平々凡々の流れの中の変化の積み重ねが、振り返れば大きな像を結んでいる。そういうことか。娘たち4人のうち2人は結婚した、そのうち孫が生まれ、その子が大きくなり、姉妹間の交流は盛んになるのかならないのか、アメリカに行ったルースに母国は遠くなるのかならないのか、誰にもわからない。長女はしっかり者で、次女の「結婚しない人生」には「彼女は獣医だから、立派な仕事を持って一人でやっていける。でも三女のロシーオは結婚させないとダメなの」と冷静だ。親父は画家らしいがこれといって、娘たちに積極的な発言はないものの、慈愛に溢れる父親である。つまり、この映画はきっぱり断言しているのだ。才能があるとかないとかはどうでもよろしい。金もあるに越したことはないが、あえていえば血道をあげて稼ぐ必要はない、人並みの仕事を持ち、真面目に働き、うまい料理を作って食事を楽しみ、妻と夫を愛し、力を合わせて仲良くやっていければ人生は微笑む。この力強い現実賛歌の哲学の前に、どんな屁理屈もかすむ▼結婚前に男関係があろうとなかろうと、女関係があろうとなかろうと、好きあって結婚したら、お互いさえ大事にすればすべて解決である。細かいことにごちゃごちゃ言うな。偉大な人生の知恵と言わずなんという。どんな人間の上にも日は昇り、日は沈むのだ。ベルエポックとは現在只今の生の輝きではないか。変哲もない退屈な田舎の結婚騒動が、ここに至って堂々とした骨格を見せてくる。一番可愛い娘役のペネロペは役得でした。スペインの陰影綾なす光と影こそ彼女の土壌です。いつまでハリウッドのスペクタクルにたぶらかされているのか。そろそろ帰ってきたらどうか。そういえば彼女の代表作こそ、ペドロ・アルモドバルと組んだ「ボルベール<帰郷>」でした。これを超える傑作をペネロペまだ演じていません。

 

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