女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

特集「祝カンヌ国際映画祭女優賞/ダイアン・クルーガー8日間」

2017年9月17日

特集「祝カンヌ国際映画祭女優賞/ダイアン・クルーガー8日間」⑦
マンデラの名もなき看守(2008年 事実に基づく映画)

Pocket
LINEで送る

監督 ビレ・アウグスト

出演 ジョセフ・ファインズ/ダイアン・クルーガー/デニス・ヘイスバート

シネマ365日 No.2241

「マンデラさん!」 

★15-18_ダイアンクルーガー2

邦題の傑作にあげるわ。原題は「さようなら、バファナ」。バファナとは主人公ジェームズ・グレゴリーの幼年時代の黒人の友だち。長じて自分の人生を変えてくれたネルソン・マンデラ(デニス・ヘイスバート)との別れに「さよなら、友よ」の感慨を込めて用いていますが、邦題には詩情があり、内容に忠実ですね。アパルトヘイトという複雑強固な差別と闘い抜き、刑務所に収監されること26年間、そのうち(中断はあるものの)22年間を刑務官として彼に付き添ったグレゴリーとその妻グロリア(ダイアン・クルーガー)の物語です。マンデラたち政治犯が収監されている刑務所のあるロベン島にグレゴリーは赴任する。コサ語を理解し話せるから、囚人たちの手紙を検閲し、日常を監視する。グレゴリーもグロリアもマンデラたちの反政府活動をテロと断じ、死刑にすべきだと信じている。面会に来たマンデラの妻が、握手しようと差し出した手を、グレゴリーは握りもしない。1968年6月だった▼独房で実際にマンデラに会ったグレゴリーは、彼の堂々とした信念に認識を改め、アパルトヘイト(人種隔離政策)がアフリカの国と国民を踏みにじっている現実に目覚める。会話を交わすうち友情が芽生え、マンデラの人格と見識に動かされたグレゴリーは、アフリカの国と人への理解を深めていきます。グレゴリーは良き家庭人であり、父であり夫です。グロリアは無邪気な、明るい妻です。ロベン島に赴任し、マンデラの担当だとわかると「すごいわ、もう下っ端は卒業ね」と喜ぶ。下級官吏の夫の給料は少なく、美容師の資格のある妻は美容院にパートで働く。グレゴリーが目にした刑務所の作業は過酷でした。炎天下の作業場で繋がれた囚人たちは明けてもくれても岩を砕く。すぐ棒で殴られ、動物のような扱いを受ける黒人たちに、グレゴリーは疑問を持たざるをえなくなる。でも「お給料とパート代じゃ子供たちの靴も買えない。この仕事しかないのよ。家だって官舎だし」▼グレゴリーは息子を大学に行かせる。看守の息子に大学はいらないと思われるのが普通だったが「マンデラが言った。子供たちを大学に行かせたまえ。教育ある若者が必要だと」。「マンデラに自由を」の運動が高まり、重要政治犯4人をポールスムーア刑務所に移動させることになった。コサ語を解するグレゴリーは、ロンダ島18年の勤務から、マンデラ番として異動することに。グロリアはプンプン怒る。「息子の学校には車で3時間よ」「僕は一看守かもしれないが、歴史の一コマを見届けたいのだ」。プイと横を向いたまま夫の願いを聞いたグロリアは、小声で「庭付きの家にして」ちゃっかり注文をつける。「ありがとう」とグレゴリー。息子も看守になった。彼もマンデラも息子を事故で失う悲劇に見舞われる。一方で「マンデラに自由を」の運動は盛り上がり、ここでマンデラに死なれでもしたら暴動で焼き討ちになると恐れた政府は、郊外のヴィクター・フェルスター農園刑務所に移送を決める。グレゴリーも一緒だ。1988年12月だった。黒人よりの白人は脅迫や嫌がらせを受け、グロリアは「子供たちを殺すと電話してきた」と怯えた。農園刑務所の看守となった夫に「すごく幸せよ。ありがとう」「洗濯機も皿洗い機もある。寝室にはテレビもあるよ。子供部屋もある」幸福にあふれている時、息子が事故で死ぬ。「我が家で初めての博士でした」うちしおれるグレゴリーに大役が降りた。現大統領デクラークとマンデラの会見に付き添うのだ。グロリアはいう。「あなたは単なる看守ではなく、歴史の一部になれる。強くならないと。国の将来がどうなろうと、私たちとナターシャ(娘)のために」▼マンデラからグロリアに贈り物があった。「暖かくしてくれと」毛布だった。「一度もあったことがないのに、やさしい人ね。姿カタチも知らないのに」グロリアのマンデラ観にも変化が生じていた。マンデラの演説を聞いた彼女は「いい演説ね」「テロリストに見えるかい」グレゴリーも意を同じくして妻を見る。大統領とマンデラの会見を終えたグレゴリーを上司が訪問した。「終わりだ。日曜にマンデラは釈放される。刑務所の門を出るまでが君の仕事だ。よくやってくれた」。グレゴリーは中尉に昇進した。1990年2月11日。刑務所の前は群衆で埋まっていた。テレビは報道する「ネルソン・マンデラ氏の姿が見えます。この瞬間を世界が待っていた。30年近く刑務所に収監されていたマンデラ氏が初めて大衆の前に姿を現します」。歓声を浴び、車に近づくマンデラに、ひときわよく通る声が「マンデラさん!」。グロリアではないか。やってきたのだ。「姿カタチも」知らなかったマンデラに一目会いたいと、群衆をかき分けて呼びかけたのだ。マンデラが手を振る。私、このシーンがある意味、クライマックスだったと思うわ。ジョセフ・ファインズの、抑制のきいた深みのある演技もさることながら、夫のそばで自分自身も成長を遂げた、屈託のない妻を演じたダイアンが、いいところをさらっている。彼女の中で、もはやすべての差別は氷解している。グロリアの笑顔にアフリカの光が降り注いでいた。

 

Pocket
LINEで送る