女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

特集「ベストコレクション」

2017年10月3日

特集「白秋のベストコレクション」③
ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択(2016年 日本未公開)

Pocket
LINEで送る

監督 ケリー・ライヒャルト

出演 ローラ・ダーン/ミシェル・ウィリアムズ/クリステン・スチュワート/リリー・グラッドストーン

シネマ365日 No.2257

人生は過ぎゆく

01-04_白秋のベスコレ1

インディー系で高い評価を受けているケリー・ライヒャルト監督の最新作。残念なことに彼女の作品は、本作もそうですが、ほとんど日本で未公開です。ミシェル・ウィリアムズとかクリステン・スチュワートの若手が出演しています。クリステンは、不倫バッシングで一時落ち込んでいたとき、インディー系の作品で演技を磨いていた。スーパー・モデルや元カノやら、しょっちゅうサイトを賑わしていますが、仕事をスポイルするようなヤワじゃないですね。安心してみておれます。タイトルの「ライフ・ゴーズ・オン」は「人生は過ぎゆく」とでも訳せばいいのでしょうか。三人の女性たちの、あまりにフツーなシーンが「いったい何が言いたい」と受け取られるかもしれませんが、わたしたちの日常はほとんど同じことの繰り返しです。その堆積の中で目に見えない変化は醸されている。どこにたどり着くかわからないまま、人生は去りゆく。その視点で見ると、彼女たちのモンタナの片田舎での、ありふれた断面に過ぎない一シーンがやるせなく、叙情に満ちたものとして映ります。製作総指揮に「キャロル」のトッド・ヘインズ監督が当たりました▼ローラ(ローラ・ダーン)は職場での性差別や人種問題を扱う弁護士。数ヶ月間、会社に騙されたと思い込んでいる顧客に悩まされている。別の弁護士を紹介したが、彼はストーカーのようにローラを追いかけてくる。「自分が男だったらと考えると楽しいわ。みんな話を聞いてくれてOKと言ってくれるのだから、心地よい経験よね」全く、彼女に付きまとうのはイカれた失職男だけではなく、もっと根深いジェンダー差別なのだ。ジーナ(ミシェル・ウィリアムズ)は専業主婦。新居の建築に没頭中だ。ジーナは夫のライアンにいつもイラつかされる。どうしようもなく鈍感で気がきかない。知人の庭に積んである砂石をもらいに行くが、相手はライアンにしか興味がなさそうだ。遠からず自分たちは別れることになるとジーナは予感する▼ジェイミー(リリー・グラッドストーン)は牧場で働いている。冬の牧場で馬の世話をする孤独な作業だ。ある夜、学校に入っていく車を見かける。ロースクールを卒業したばかりの弁護士エリザベス(クリステン・スチュワート)が、社会人だけが受講する夜間教室で毎週木曜に学校法を教えていた。ジェイミーはエリザベスに会いたくて講座に出席し、授業が終わってから、ダイナーで食事に付き合うようになった▼エリザベスは学校に来るのに車で4時間、帰るのに4時間の距離を通っている。その夜ジェイミーは馬に乗ってエリザベスを迎えに行った。驚くエリザベスを後ろに乗せ、いつものダイナーに行く。ゆっくり歩む馬の蹄鉄の音が人通りのない道に響く。「母は学食で働いていて、姉は病院の洗濯係だから、うちの家族の女には販売員でも立派な仕事よ。でも弁護士になったのだからよかった。今からここを出て家に帰るのは2時。5時間寝て8時には仕事」エリザベスはそんな話をし「馬に乗れてよかった。車まで送って」二人はまた馬に乗って戻る。このわずかな時間がジェイミーの一生の思い出になる▼エリザベスは学校をやめ代わりの講師が来た。それを知ったジェイミーは町まで走り、車中で眠り、目が覚めてから「エリザベス・トラヴィスって弁護士、知らない?」と町中の法律事務所に聞いて回る。その一軒がローラの務める法律事務所だ。でもそこにエリザベスはいない。諦めかけたとき、エリザベスの車が来た。「来ちゃった」とジェイミー。「驚いたわ」その反応はうれしいというより戸惑いがにじんでいる。「邪魔するつもりはないけど、二度と会えないのはイヤだから。それだけ…じゃ、動物たちが待っている」。エリザベスと別れて町を去るジェイミーの描写がいい。彼女のいる町からだんだん、車は離れていく。離れたくないものから離れていくやるせなさ。寒々と枝を伸ばす冬木立ちの向こうに、荒漠と広がる空がある。無情なまでに交錯することのない人生。牧場でジェイミーは馬に飼葉をやり、厩舎を掃除し、冬空の下に馬を出す。いつもと同じように変わることのない日々が今日も過ぎる…いい映画でした。移ろうものに何かを見出し、意味を与えるのは自分なのですね。日常という人生の正体に、監督は強い肯定と信頼を託しています。ロンドン映画祭最優秀作品賞。

 

Pocket
LINEで送る