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特集「ベストコレクション」

2017年10月7日

特集「白秋のベストコレクション」⑦
ヒットマン:インポッシブル(2016年 日本未公開)

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監督 アッティラ・ティル

出演 サボチ・チューローチ/ゾルタン・フェンベシ/アダム・ファケテ

シネマ365日 No.2261

車椅子の殺し屋 

05-09_白秋のベスコレ2

邦題とジャケ写から痛快アクション映画かと思ったけど、全然ちがうじゃない。苦味も渋みも噛み応えもあるハンガリー映画の佳品です。原題「車椅子の暗殺者」。ラストのどんでん返しへのプロセスがよく練られ、あざとさがない。舞台がブタペスト、セルビアマフィア、ロシアンマフィア、ウクライナマフィア、入り乱れる中に、主人公である障害者3人が登場する。車椅子の中年の殺し屋ルパゾフ(サボチ・チューローチ)は元消防士、3年前事故で下半身付随になり刑務所から出てきたばかり。ゾリ(ゾルタン・フェンベシ)は先天的な脊椎の病気で車椅子が必要だ。手術を受けるかどうか決心がつきかねている。彼の親友バルバ(アダム・ファケテ)と二人、漫画を描きながら鬱々と日を過ごしていた▼ゾリとバルバはある日、ルパゾフの仕事を見る。交渉の場に来たマフィアたちは「お前たちの相手は俺だ」というルパゾフに半信半疑。車椅子を「帰れ」脚で押しやった途端、ルパゾフはクッションに隠したサイレンサーで全員射殺した。ゾリとバルバは力のみなぎるルパゾフに憧れ、殺しのアシスタントをやる。ところがルパゾフの雇い主、セルビアマフィアのラドシュが、極秘を要する殺しの仕事を手伝わせるなど勘弁ならん、秘密を知ったあいつら二人を消せ、始末するまで金は払わないという。ルパゾフは彼らを桟橋から突き落とすが、不憫になって車椅子ごと飛び込んで助け「冗談でやったのだ、すまん」と謝り、飲みに連れて行く。三人に友情が生まれる。二人が生きていることを知ったラドシュはルパゾフに首を吊らせるが、自力で脱出する。こうなった以上、先にラドシュを殺してしまおうと、ルパゾフはラドシュの自宅に侵入する。車椅子を巧みに操り、居室に辿りついたルパゾフは、ラドシュの抵抗にあい苦戦、ナイフでぐっさり腹部をえぐられる。そこへ来たのはゾリだ。ルパゾフから預かった拳銃で迷いなくラドシュを撃ち殺す。ゾリはルパゾフの死体をそのままにしてバルバの車で逃走する▼ゾリとルパゾフの、それまでの温かみのある交流に比べ、遺体放棄のシーンが淡泊すぎる、と思った方がおられたら正解。場面は一転、ドイツで再婚した家族と暮らすゾリの父親「ルパゾフ」の元に、息子ゾリから完成したコミック本「車椅子の暗殺者」が送られてきた。ゾリが覚えているのは25歳のヒゲ面の父だ。そう、ルパゾフのモデルは父。私たちが見てきた映画の物語は、ゾリのコミックの内容なのだ。難病を抱えた障害者の青年が「ルパゾフ」を描くことで、未来に立ち向かう力を得ます。ゾリは母親に詰問したことがある。「どうして父と別れたの。僕が原因だろう。父は僕が恥ずかしかったのだ。だから僕と母さんを棄てドイツに帰ったのさ。手術のお金なんか出していらない。出してくれたなら僕の葬式代にして」。ゾリの造型したルパゾフは絶望しながらも明るさを失わない。荒々しいが思いやりのある男です。父を憎みながら慕ってきた、少年ゾリの心の投影でしょう。親友バルバも共作者です。車椅子こそ使っていないが、不自由な手で、飲み物はストローからしか飲めない。出演者は実際に障害のある人たちです。彼らの身体性がスクリーンを雄弁にする。バルバとゾリがコミコンに出品した「…殺し屋」は、入賞こそ逸したが女性編集者が声をかけ「面白いものがあるわ」と出版を前向きに検討した。病気、障害、見通せない将来、両親の離婚、映画には日常的な暗さと不安が影を落としていますが、青年二人の未来に、明るさを用意した監督の視点が精彩を放っています。

 

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