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特集「昭和のスター列伝」

2017年10月19日

特集「昭和のスター列伝1」 藤純子②  
緋牡丹博徒 二代目襲名(1969年 アクション映画)

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監督 小沢茂弘

出演 藤純子/高倉健/嵐寛寿郎/待田京介

 

シネマ365日 No.2273

未来のアクション・ヒロイン 

昭和のスター列伝1

渡世の旅を終え、7年ぶりに緋牡丹お竜こと矢野竜子(藤純子)は故郷熊本に帰ってくる。筑豊は炭田開発によって遠賀川流域は活況を呈する。九州の親分衆は石炭運搬のための、鉄道敷設工事を請け負うが、川舟運輸によって生計を立てていた川筋者は生活の手段を奪われ、激しく敷設工事に抵抗した…このシリーズはいずれも高い水準を保っています。理由の一つはスピーディな筋運びにあります。まずセリフが短い。長いセリフを喋るのは大抵お竜ですが、男優たちのセリフはワン・ワードに近い。クリント・イーストウッドは「荒野の用心棒」でシナリオを読み、セルジオ・レオーネ監督に「もっと短く。もっと短く」と注文した。彼はセリフによる長々した説明が嫌いです。緋牡丹シリーズのセリフの短さも、クリントの流儀に勝るとも劣らない▼いま見てもこの映画が古くならないのは、日本人が美学とする、世界でも稀なコミュニケーション「思いを察する」気配と忖度に貫かれているからです。想像力の乏しい人に「察せよ」といってもどだい無理な注文で、気脈が通じるとか、惻隠の情とは日本人の繊細な感性から生じました。なんでもかんでも、やり込めるまで議論で白黒つけるのは、黙っていれば言葉の通じない相手との間で必要とされこそすれ、自分の意見を主張できない、日和見主義の日本人とバカにするのは間違いです。文化が違うのだから表現が異なるのは当然でしょう。登場人物はほぼみんな、クドクドいわない。屁理屈をこねない。約束はたとえ「口約束」であっても「男の約束」に二言はない。断るときはきっぱり「あんたの出る幕じゃありません」というふうに、誤解の生じようのない言い方をする。渡世の勝負は盆の上。さいの目ひとふり、一本で決まる。主役級はみないさぎよい。トラブルを収束させた最大の功労者が、「晴れがましいことは性にあわねえンで」とひっそり去る(主に健さん)。あるいは矢野一家の出入りの責任を一人でとる。「ここはあっしに任していただきます。いくのはあっし一人で充分で」。どこに行くの、などと聞いたらお笑いである。監獄に決まっている▼死んでもお竜と一緒にいるという、不死身の富士松(待田京介)の忠誠。職を失った川筋者のために奔走するお竜に、川人足の元締め・赤不動の勘蔵は「俺は陸蒸気に負けたとじゃなか、あんたの真心に負けた」という情の世界。矢野組から敷設工事を横取りしようとする悪徳親分が人足を買収した。工事完了日は迫るのに人がいない。お竜の親代わりの大阪堂萬組のおタカ(清川虹子)は、九州に遊びに来ているボンボンに人集めを頼む。「連れてきたで〜」。見れば芸者の群れが、赤、橙、萌黄、色とりどりの裾をからげて嬌声をあげ、土手を駆け下りてくる。「アホ、芸者連れてきてどうする」「男連れて来いとはいわんかったで」「人足は男に決まっとる!」。緩急自在なやりとりがテンポよく物語を運ぶ。お竜のセリフが比較的長いと書いたが、彼女はああ見えて、いたるところでカウンセラーみたいに人さまの世話を焼くからである。困っている人のそばを知らん顔で通り過ぎることができない。「よかったら、わけば聞かせておくんなせ」込み入った話に首をつっこむからやりとりは長くなる。わけを聞いたら助けてしまう。思い合う恋人たちのあいだに障害があり、一緒になれない硬直状態を打開するケースが多い▼シリーズを通してお竜の行動は疾い。一番列車で名古屋を出発、大阪で金を工面し、最終列車で戻るや、深夜アウェーに乗り込み「約束をたがえ渡世の義理が立つと、思うておられるッとですか。死んでもらいますばい!」啖呵を切って決着をつける。このスピードがお竜の魅力を加速させた。まだまだ女性の地位は低かった。会社で安い給料でこき使われ、大して仕事もできない男たちが威張り、雑用を押し付けられ、昇任は閉ざされたままの OLたちは溜飲を下げたであろう。お竜の死んだ父の弟、つまり叔父の侠客が嵐寛寿郎だ。67歳だった。痩せた面長の容貌、鼻梁の整った高い鼻、渋く重い声。「筋の通った挨拶をなさるお方の前で、不躾な真似はやめな」と若い衆を諌める。重傷を負いながら「大勧進の花会さえすめば、必ず落とし前はつけてくれる」と耐える。美しく勇敢な女が生き残り卑怯者は滅びる。以後50年、銀幕に生まれる未来のアクション・ヒロインの原型が、お竜に見出されるといっても、多分いい過ぎではない。

 

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