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特集「昭和のスター列伝」

2017年10月23日

特集「昭和のスター列伝1」 江波杏子③
津軽じょんがら節(1973年 社会派映画)

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監督 斎藤耕一

出演 江波杏子/織田あきら/中川三穂子/西村晃

シネマ365日 No.2277

ダメ男を溺愛する女

★23-27‗昭和のスター列伝1-2

イサ子(江波杏子)のような昭和の女は、もはやスクリーンでしかお目にかかれなくなったのではないか。彼女を見ていてふと郷愁にとらわれる。舞台が最北の過疎村、荒波打ち寄せる津軽の漁村という設定も、イサ子の人生の影を濃くしている。イサ子はヤクザに追われる年下の情人・徹男(織田あきら)をかくまうため、故郷の村に帰ってきた。海で死んだ父と兄の墓を建てるためもある。イサ子は昔、同じ村の男と駆け落ちし、東京で別れ、違う男を連れて帰郷したわけだ。男の父・為三が西村晃である。今では漁も廃れ漁村の男たちは失業保険が支給される間は、村に一軒しかない飲み屋でクダを巻き、花札博打に興じ、女たちは薄暗い家にとじこもって網の繕いや、イカ釣りの漁具作りを内職にする。イサ子は真っ赤なオーバーに、派手な花柄の、見るからに安物のスカーフを頭に巻き、洗いざらしの着物やモンペをはいて集まってくる主婦たちに混じり、軽トラの行商から魚を買う。見るからに場違いで浮き上がっている。乗合バスから降りたイサ子は、白い牙が打ち寄せるような海を見て「きれいだなあ。東京よりずっといいわ」とうれしそうにいう。男は「冗談じゃねえ」と吐きすてる▼徹男という男は、いつも分厚い唇を半開きにしている締まらない顔だ。イサ子が体をふたつに折って坂道を上る荷車を引き、布団や食料を運んでいる側を、車を押すでもなく引くでもなく、ふてくされて歩く。夕食は袋ラーメンだ。どんぶりを持ち「なんだか新婚所帯みたいだね」と女が微笑むと「くそっ」男は箸を叩きつける。イサ子は笑顔で「あしたからもっと、ちゃんとしたもの、食べさせてあげるからね」。板を建てただけの父と兄の墓に、イサ子は野菊を供え「あんたも拝んで」と頼むが、男は「チェッ」。織田あきらがそばにいるだけで不愉快になる男を演じる。イサ子は七輪でうちわをバタバタさせ魚を焼く。男は「パチンコがしてエ」「バスに乗って町へ行けば。2時間よ」。浜辺に打ち上がった枯れ木を拾いに行った。男は罵声を上げてイサ子が集めた枯れ木をはたきおとす。「みんなこうやってタキギを集めるのよ。恥ずかしいことじゃないの。諦めなさいよ。事件のホトボリがさめるまで、どこへもいけやしないわよ」▼金がなくなった。イサ子は一軒しかない飲み屋に働きに出る。「あんたは遊んでいればいいのよ。私がなんとかするから」。夜が更け、店にきた徹男は、酔っ払ってしまったイサ子を抱いている男を見て、「人の女に手を出して黙って帰るつもりか」脅して金を巻き上げ、イサ子に次からもっとやれとけしかける。「あんた、もう少しマシなこと考えられないの。命令もされないのに組の幹部を刺して追われる身になったの、あんたよ。私は墓を建てるまで東京に帰らないわよ」やがて出稼ぎの時期が来て、男たちはバスに乗って村を離れた。年寄りと女子供しか村にいなくなる。徹男は全盲の少女ユキと知り合い、漁師の為三のシジミ取りを手伝うようになる。ユキは「アンちゃん」と慕い、為三は息子の面影を徹男に見る。シジミ漁で疲れ切った徹男はぶっ倒れて眠り、愚痴をいうのも忘れた▼イサ子は保険会社から、父と兄の遭難は保険詐欺の疑いがあり、保険金は出せないと通告された。コツコツと貯めていた貯金はイサ子の同僚が持逃げした。イサ子は気力も失せ東京に帰ろうというが、徹男は渋っている。彼はユキと為三のいるこの土地に居場所を見つけたのだ。イサ子はひとり故郷を去る。眠っている徹男に「あんた、ふるさとが見つかって、よかったね」とつぶやき、身の回りのものを詰めたペーパーバッグ二つを持って出て行く。まともなトランクもないところが哀れを誘う。徹男はユキの母親と祖母に受け入れられ夫婦となり、為三とシジミ漁に励む。その徹男も追ってきたヤクザに殺された▼斎藤監督はイサ子役を「女賭博師が終わり、行きくれていた江波杏子以外に考えられなかった」とインタビューで答えていた。江波は31歳だった。1966年から71年まで、17作続いた「女賭博師シリーズ」が大映の倒産とともに終結していた。江波はうっぷんを晴らすように、クズ男を溺愛する、はてしなくやさしい場末の女を演じキネマ旬報主演女優賞に輝く。賢い女は徹男のような自滅型男にとっくに見切りをつけ、殺すなり、棄てるなり、しているだろう。徹男を、ずるずると、とめどなく崩れていくダメ男にしたのはイサ子かもしれない。だがそれが男であっても女であっても、ダメになるほうが弱く悪いのであって、愛したほうが悪いのではないのだ。自分を見棄て、守りもしてくれなかった男に「あんた、ふるさとが見つかってよかったね」といって去る女。そんな女に文句のつけようは、ない。

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