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特集「昭和のスター列伝」

2017年10月27日

特集「昭和のスター列伝1」 石原裕次郎③
錆びたナイフ(1958年 アクション映画)

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監督 舛田利雄

出演 石原裕次郎/北原三枝/宍戸錠/小林旭

シネマ365日 No.2281

裕次郎の暗さ 

★23-27‗昭和のスター列伝1-2

裕次郎の24歳は怒涛の仕事量だった。「嵐を呼ぶ男」から「紅の翼」まで11本。毎月ほぼ1本は裕次郎の映画が日本中でかかっていたことになる。本作は裕次郎主演で25作品を撮ることになる、舛田利雄監督の、最初の裕次郎映画だ。「映画監督舛田利雄」で、彼は裕次郎の一面に触れ「裕次郎という人は利口な人だから普段は絶対に見せないけど、明るいイメージとは懸け離れた暗い部分があるんです。随分あとの話だけど、銀座に飲みに行ったときに、相当飲んだあとにもの凄い目つきをする瞬間があったんだ。今や、スターになったのだから、そんな目つきだけはするなといったことがあるくらい」と思い出を語った。どんな目つきか想像するしかないが、裕次郎の「目ぢから」は、小林旭や宍戸錠とはまた違う「暗さ」があったことは確かだと思う▼本作はにわか仕立てもいいところで、すでにクランクインしていた「陽のあたる坂道」(田坂具隆監督)の撮影が延び、「なんとか裕次郎を一本入れてくれ」という「地方の小屋(映画館)」の注文が殺到した。裕次郎はドル箱だった。舛田監督は10日か二週間足らずでほとんど眠らず「錆びたナイフ」を撮り、裕次郎を「田坂さんにお返しした」とある。荒っぽい映画だが不思議なスピード感が走り、それなりに見られるのだ。北原三枝とのラブストーリーはないものの、「俺はダメだ、ダメな男なんだよ、啓子さん」とよろめきながら去る後ろ姿に「いま、私が行ってやらなきゃ」と北原三枝が追いかけるシーンでエンドだ。橘(石原裕次郎)は恋人がレイプされ、復讐を果たして服役、出所して小さなバーを開いている。弟分のバーテン、寺田が小林旭だ。宍戸錠の島原はあっさり殺されて最初のほうで退場する。橘・寺田・島原の三人は、啓子(北原三枝)の父・市会議長が自殺ではなく他殺の現場を見た証人だった。黒幕がいて、目撃者を殺していくのが主たるストーリーだが、それはむしろサイドで、橘と寺田の兄弟愛、過去から立ち直れない橘のジレンマが主。裕次郎に北原三枝、小林旭に宍戸錠、白木マリといった日活アクション映画のメーンとなる俳優たちが若々しい▼「俺は待ってるぜ」もそうだったが、なんぞ、といえば兄と弟、あるいは兄貴分と弟分という男社会の縦軸をすぐ入れたがるのは脚本・石原慎太郎のせいか。慎太郎はホテルに缶詰になって脚本を書いていたが彼は悪筆だった「兄貴の字は誰も読めない、俺が清書してやる」といって裕次郎が、自分のセリフをどんどん短くしてしまったというエピソードがある。寺田は恋人の由利(白木マリ)と一緒にいたところを、街を牛耳るボス、勝又の手下に拉致され金で口止めを強要される。橘はアナウンサーの啓子が持ち込んだテープを聞き、5年前の恋人の暴行事件は、彼女がどこかの事務所に連れ込まれ、集団レイプを受けた挙句、殺されたのが真相だったと知る。犯人は別に大物がいたのだ。やがて寺田も橘も命を狙われ始める。舛田監督は石原裕次郎でハードボイルドが撮りたかったらしい。もう二度と人殺しはしないと誓った橘が、真犯人を見つけて頭に血が上り、殺してしまう。で、やっぱり俺はダメな男だと後悔する…ヘンなハードボイルドだけど、劇中挿入される、裕次郎が低音で歌う「錆びたナイフ」が最高にムードを出していた。こういうところが並みの小粒の俳優じゃないな、と思ってしまう。裕次郎の歌も映画も、歌唱力とか演技とかとは無関係のところで人を巻き込むのだ。計算とか練習とかとは異なる「裕次郎の空気」を彼は強引に呼吸させてしまう▼それにしてもこの映画のロケに使われた町。映画では宇高という架空の町になっているが実は門司である。薄暗い路地裏にひしめく、小さな飲み屋の繁華街。着崩れた酔っ払い男にもつれ合うけばけばしい女。旭がカウンターの上をツーッと滑らせるグラスにボトル。キザで、ヤクザで、浅薄で、そのくせ活気と陰影が溶け合って底辺で蠢いていた、エネルギッシュな昭和のワンシーンがそこにある。

 

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