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特集「昭和のスター列伝」

2017年10月29日

特集「昭和のスター列伝1」 石原裕次郎⑤
赤い波止場(1958年 アクション映画)

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監督 舛田利雄

出演 石原裕次郎/北原三枝/大坂志郎/二谷英明/中原早苗

シネマ365日 No.2283

ベタの美学 

★28-31‗昭和のスター列伝1-3

笑われてもかまいません。わたし、裕次郎のすべての作品の中で、本作がいちばん好きだし、傑作だと思っています。ミナト神戸にオールロケした臨場感、太陽と潮風の匂い、裕次郎が真っ白な、あるいはダークなスーツでネクタイを締めた「左撃ちの二郎」ことヤクザの富永二郎を、彼を執拗に追う野呂刑事に大坂志郎、跡目を継ぐのが二郎だとわかった途端、彼を消そうと神戸入りする兄貴分・勝又に二谷英明、波止場での偶然の出会いで二郎が一目惚れするレストラン・杉田屋のお嬢さん圭子に北原三枝、二郎の弟分、チコに岡田真澄、二郎に片思いのダンサー、マミーに中原早苗、ママと呼ばれる船員宿の女将に轟夕起子、殺し屋に土方弘。一癖も二癖もある芸達者が脇を固めました▼「望郷」が下敷きになっています。孤児の身の上からヤクザの道に入り、いつも拳銃を身につけている二郎は、いつか今の自分を脱出したい、広い海外に出たいと波止場から海を見て胸を高鳴らせるが、具体的な方策はない。エネルギーだけはしこたまあるのに、燃焼させる目的も意味も人生に見つけられない、それを思うたび二郎の胸はドス黒くなる。ナイーブな青年の閉塞感を裕次郎がよく出しています。彼はもともとデリカシーのある役が向いている。慎太郎よりよほどシャープな感性だと思ったことがあります。それに、裕次郎が追われる身となって潜伏する船員宿の重苦しさ。梁が落ちてきそうな低い天井、エアコンもない蒸し風呂のような部屋で、裕次郎が狭いベッドにひっくり返り、小型の扇風機で上半身裸の胸に風を送っている。その光景のいかがわしさ。と思えば丘の上に建つ瀟洒な邸宅。港まつりのざわめきを遠くに、土方弘と岡田真澄が向かい合う、金網越しの対決シーン。撃った、倒れた、という幼稚な場面にしなかった撮影センスは姫田真佐久です▼いくつかすぐ思い当たる場面を書きましたが、いちばんサイコーなのは裕次郎が北原三枝と初めて出会う波止場の場面。ハーモニカを吹いている少年の叔母が圭子だ。まったく何の変哲もなく北原三枝は登場する。黒いスラックスに白のブラウス。一目見て素人とは思えない男が、甥にハーモニカで「青い目の人形」を吹いてやっている。声をかけたものかどうか、ためらいがちに甥を呼ぶと、男が振り向いた。裕次郎がポカンと口を開け、締まらないことおびただしい顔をします。北原三枝は確かに綺麗な人ですが、色っぽいという女性ではない。ショッキングな写真がありました。彼女が主演した「逆光線」(1956)で水着姿の全身だったと思う。映画は見ていないので筋書きもキャストも知らない。日本人離れしたプロポーションと豹のようなしなやかな肢体に仰天し、北原三枝と裕次郎の噂がではじめたとき、裕次郎がイかれるのは無理ないと思いました▼主題歌「赤い波止場」が唐突に入ります。覚えやすいいい歌で、洗濯物がはためく屋上で、裕次郎が港を見下ろしながら機嫌よく歌う。道行く人が、おじさんもおばさんも振り仰いで微笑みを返す。ハリウッドでもここまで、なりふりかまわぬ「よいしょ」は見当たりません。できすぎも極まっていますが、当時の日活と裕次郎は「ベタの美学」ともいうべき強烈、かつワイルドな体臭を放って独走していました。

 

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