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特集「昭和のスター列伝」

2017年10月30日

特集「昭和のスター列伝1」 石原裕次郎⑥
陽の当たる坂道(1958年 家族映画)

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監督 田坂具隆

出演 石原裕次郎/北原三枝/芦川いづみ/川地民夫

シネマ365日 No.2284

陽のあたる家と家族 

★28-31‗昭和のスター列伝1-3

1958年(昭和33年)の邦画興収1位が「忠臣蔵」、2位が本作で4億71万でした。裕次郎映画4本がベスト10入りしています。本作がトップ、「紅の翼」「明日は明日の風が吹く」「風速40メートル」です。本作の観客動員数11億2700万人は史上最高でした。裕次郎にはアクションのほか文芸路線があり、ほとんどが石坂洋次郎の原作です。「あいつと私」「若い川の流れ」「あじさいの歌」「若い人」など。それがまたヒットした。明るく楽しく青春を謳歌する、カスタマナイズされた青年像でなく、裕次郎の陰の部分をうまく引き出した、画一性に対する反画一性がバックボーンになりました。本作はその代表作です。田坂具隆監督はブルーリボン監督賞をとっています。今から見ても奇をてらわない、丁寧な、丁寧な描き込みでした。相対する二人のセリフのやり取りで映画が進行する、実にわかりやすい構成ゆえ長尺3時間半も苦痛なく過ごせます▼原作者は「エデンの東」をヒントに裕次郎を主人公にしたそうですが、特にそれを意識しなくてもよくできていました。富豪の田代家の三兄妹、長男が医者の雄吉、次男が絵を描く信次(石原裕次郎)、末っ子の娘がくみ子(芦川いづみ)。信次は父親が芸者に生ませた子だと、物語の早い段階で気がつきます。妹の家庭教師、倉本たか子に北原三枝。のちに信次は「初めて会ったときから好きだったんだ、あなたの裸の体を抱きたかったんだ」とぶちまけますが、それまでは本音を言わない、抑圧的で屈折した青年です。たか子は雄吉にプロポースされるが断る。素直にハイと言えない。整った雄吉より、奔放だが正直な信次がなぜか信頼できるのです。たか子が住むアパートの同じ住人に、くみ子が好きになるジャズシンガーの民夫(川地民夫)がいます。彼の母トミ子が信次の実母です。恋愛、兄弟愛、親子・家族愛、みな盛り込んでありましてなかなか壮観です。足の悪いくみ子は子供の頃、雄吉のせいで怪我したのが原因だが、雄吉はそれを信次に押し付け、大人になった今も、ファッションモデルを妊娠させたことを信次にかぶせる。信次がなぜ諾々と兄を庇うのか、彼はそういう性格なのだという、あっさりした表出で、それ以上の掘り下げはないし、信次と民夫、信次と雄吉の兄・弟が兄弟喧嘩の殴り合いで理解しあう、という実に大雑把な顛末ですが、もともと怒ったり悲しんだりする映画ではないのです▼オープニングはたか子が田代家を探しながら坂道を登っていく。黒のスーツに平底の靴、長い黒髪は無造作に背中に。当時のしつけのいい女子大生そのものです。北原三枝が家族の留守中、犬舎に信次がいるのを知らないで、庭でバレエダンスを踊る。これが上手で…日劇で鍛えてあるから当たり前だろうけど(笑)。田坂監督は北原三枝と芦川いづみをアップでよく撮っています。芦川いづみの清楚で可憐、北原三枝のキリッとした表情がとてもよく出ていました。たか子は弘前から東京の大学に進学した設定です。弘前は石坂洋次郎の故郷です。本作は信次の出生や、兄弟間の隠し事がベースになった家族劇ですが、たか子だけが赤の他人です。本音を言えば、裕福な家で、ぬくぬくと好きな絵を描いている信次が、出生の秘密といったところで、父親はちゃんと認知して家族として育てている、母親も公平に実の子と分け隔てなく扱う。こんな恵まれた環境での悩みなど、付き合っておれない。一つ間違えばお子様ランチである本作を、田坂監督はよくいやみなく仕上げたと思います。芦川いづみと川地民夫が早朝、手をつないで走っていく後ろ姿に至っては、人生かくあるべし。まさに愛と幸福のシンボルでした。

 

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