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特集「昭和のスター列伝」

2017年11月24日

特集「昭和のスター列伝2」吉永小百合⑤
細雪(1983年 文芸映画)

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監督 市川崑

出演 佐久間良子/岸恵子/吉永小百合/古手川裕子/石坂浩二

シネマ365日 No.2309

ためいき 

20-24‗昭和のスター列伝2-2

佐久間良子、岸恵子という東の正横綱級の大女優を相手に吉永小百合、健闘しました。監督は市川崑。市川作品で三つ選べと言われたら「おとうと」「黒い十人の女」それと「細雪」ですね。谷崎潤一郎という、重厚な作家の原作を、丁寧に、丁寧に、2時間20分にまとめあげた手腕。船場の旧家蒔岡の四人姉妹の物語です。撮影は長谷川清。市川好みのモノトーン、俯瞰からの広いアングルが、後半の大阪下町の工場街のうらぶれた家並みや旧家の佇まいを、詩的にスクリーンに収めます。三女雪子(吉永小百合)が妹の妙子(古手川裕子)に足の爪を斬ってもらうシーン。ライトを落とし、赤っぽい光と影の二重奏のようなライティングは、ヴィットリオ・ストラーロ(「暗殺の森」など)の撮影や、カラヴァッジョ「聖マタイの召命」の光と影を思い出させました▼それにしても、吉永小百合が着物の裾をめくり、古手川裕子が舐めるように俯いて爪を斬るのです。夕陽が斜めに射し込む狭い、薄暗い部屋でやらなくてもいいと思うが、吉永が秘密を打ち明けるような声でしようもないことをいい、古手川がその声の調子に頓着なく「お姉ちゃん、脚、出して」と無邪気に命令し、折角のストラートの雰囲気は、一挙に日常次元に引きずり下ろされる。こんなギャップの作り方もうまいですね。そこへ次女幸子(佐久間良子)の婿、貞之助(石坂浩二)が顔を出し、ぎょっとする。吉永の太い脚に、なあ…と思うが、惚れた弱みである。貞之助は義妹に恋慕し、一方で美容師の先生と不倫関係にあるサラリーマンなのである。石坂が表向きは妻を立て、面倒なトラブルの解決に奔走し、家を守る良き養子、他方では昔馴染みの女とちゃっかり関係を続ける気弱な夫を好演しています▼物語は雪子の結婚促進を中心に進む。雪子というのが何を考えているかわからないボーヨーとした娘。吉永は終始無表情、日活アイドル路線の主演とは、きっぱり手を切った変わりようだ。声は抑え、綺麗な着物を着て棒が突っ立ったように立つ。姉二人は見合いをさせても、させても、断る妹に頭が痛い。妙子は姉が未婚なのをいいことに、つまらん色男と駆け落ちやら、同棲やら、次々問題をこしらえてくれる。長女鶴子(岸恵子)は本家を継ぎ、幸子は分家で妹二人と同居だ。その妹たちのトラブルを背負い込み、「なんで私ばっかり…あんまりや」と悔しいやら情けないやら。泣き伏す。貞之助はおろおろ、泣くようなことと「ちがうやろ」と慰めるが、やっぱり男で、仕事に出たらホイさようなら、の男とちがい、幸子の家なかのあらゆる面倒くさいことに手をとられ「雑事」への恨み辛みは察しがつかない、ついたとしても「他人事」である▼雪子の見合いのたび、幸子と貞之助が親代わりにつきそう。見合いの一人、橘寺の場合はこうだ。紹介者のセレブのおばさんや姉たちが、せっせと雪子の紹介をしているのに、ご本人は橘寺の娘の女学生と二人だけで輪を離れ親しげに話し込む。「何を話してたン」と姉に聞かれると「学校のこととか…」例によってはっきりしない、愚にもつかぬ話題なのだ。幸子の一人娘が熱を出すと雪子は甲斐甲斐しく看病する。「しんどいか。しんどいか?」とやさしく問いかけ、頬ずりする。「ヒトの子をあんな可愛がるコは見たことない」と実の母が感心する。吉永がときおり見せる意味ありげな微笑みは、何も考えていないだけに不気味である。彼女が選んだのはアメリカで航空学を、フランスで料理を学んで帰った、子爵の妙な縁戚の更谷。これが江本孟紀だ。セリフは「うう」とか「ああ」だった。雪子はなぜかこのぼんやりした男と結婚するという。一家の問題児である妙子の駆け落ちも「全部更谷さんに話しました。だから、この結婚がダメだったら妹がかわいそう」というのだ。普通なら「あんた、妹のために結婚するのか」と念押ししたくなるだろうが、とにかくこの際、雪子を嫁がせようと幸子は無視、婚約を整わせる。夫の東京転勤で「京都より東には行ったことがない」鶴子は動転したが、度胸を決め夫とともにしばし、船場の実家を離れる決意をする。ショックはむしろ幸子で、母親が若くして亡くなってから、鶴子は妹たちの母代わりだった。喧嘩はしても、頼りにしてきた姉が大阪にいなくなる。「姉ちゃん、私、見送りにはいかへんで。見送る方と見送られる方がふたりで泣いたらカッコ悪いやろ」それだけで心細さがこみ上げ、姉に抱きついておいおい泣く。どことなく谷崎好みのレスビアニズムが濃厚です。そういえば谷崎には「卍」がありました▼大阪駅。特急「つばめ」の車窓。鶴子は「今年の桜はみんな一緒に見に行かれへんな」と涙ぐむ。姉妹四人が艶やかな着物姿で、平安神宮の満開の桜の下を通るシーンは、公開当時劇場の女性客からため息が聞こえた。映画の時代は昭和13年だ。第二次世界大戦前夜である。しかし谷崎文学の耽溺の世界に、軍靴の響きはまだ遠い。昭和初期の手抜きのない時代考証、地殻変動に取り残された船場セレブの翳り、生き方に迷いのない姉ふたり、おとなしそうだが結局だれのいうことも聞かない三女、自立目指して人形作りの仕事を持つ末娘。女の群像が彫り込まれ、岸恵子、佐久間良子は貫禄というべきでした。

 

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