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特集「昭和のスター列伝」

2017年11月25日

特集「昭和のスター列伝2」吉永小百合⑥
愛と死をみつめて(1964年 事実に基づく映画)

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監督 斎藤武市

出演 吉永小百合/浜田光夫/初井言栄

シネマ365日 No.2310

これから亡くなるところなの

20-24‗昭和のスター列伝2-2

お手上げの映画というのがあります。評価が定まり(しかも絶大な)、何か書けば重箱の隅をほじくったかのごとく、白い目で見られる作品。大ヒットして興収高ランク入りという映画も、悪口を書くとあえて大勢のファンを敵に回す気がする。本作もその一つ。で、仕方ないから、自分の実感だけを述べることにします。オープニングでヒロイン、ミコ(吉永小百合)が阪大病院の屋上で阪神戦をラジオで聴いている。吉永は19歳でした。難病患者の役柄のためか減量してシャープで、頬が引き締まり美少年のようです。学生寮にいる恋人のマコ(浜田光夫)の部屋。ベートーヴェンのデスマスクとギター、詰襟の学生服が壁に掛かってあり、部屋の外は歩けば軋む板張りの廊下、その突き当たりが共同の洗面所。当時の男子学生寮そのままでした。ミコは軟骨肉腫です。主治医が「現代の医学では治療の方法がないこと、命がいつまで続くかデータ不足で予測できないと本人に告げています▼手術をすれば顔の半分を潰すことになる。肉腫が除けたとしても5年間は再発の危険がある。安全圏内に入れる率は15%から20%。たいてい発病して5年で死ぬ。「これでも生きていたほうがいいと思う? 顔が半分潰れ、目が一つしかないお化けみたいな顔になっても」と彼女は手紙に書きます。見舞いに来たマコと「寒い朝」を二人で歌う。「僕は卒業したら君と結婚するよ。顔が気になるなら山の中で暮らしたっていい」。買い物に出たふたりはスーパーに行く。カートを押しながら、カゴの中に選んだ食品をあれこれ入れていく。楽しそうな新婚みたいです。手術したら整形に2年かかる。でも「精神的には結婚した」とミコは思っている。明日手術の日。「左鼻筋に沿って唇まで切り、左の上顎をとって目の下まで何もない」医師が説明する過酷な運命を、彼女は一人で受け止めるのです▼手術後ミコは左側に大きなガーゼを当てる。ある日右目の下に出てきた骨に触れる。吉永のモノローグ。「みかん箱のちゃぶ台の上に湯飲みが二つ。低い天井に暗い電灯が一つ。こんな部屋に場違いのステレオが美しい夢を運んでくる。肩を寄せ合って黙って聴いている二人。こんな日が一日だけほしい」。二度目の手術を受ける決意をする。「一度あきらめた命だもの。もう一度手術を受けよう。それが失敗したとしても、三ヶ月延びた命。春の手術がうまくいうように祈ろう」「私がいまいちばんほしいものは密室。その中で声の続くかぎり泣いてみたい」。残酷だが、彼女は恋人の電話で再発を知るのだ。ミコが既に知っているものだと思った彼は「お父さんからの手紙で再発を知った」と言う。マコは確かにやさしく繊細な青年だが、不治を宣告されている難病患者に、たとえどんな状況であれ「再発」という言葉を口にのぼす神経に呆然とした。絶望が襲う。「私の命は終局に近いような気がする」。彼女の両親は西脇市にいる。常には病院へ来られない。だから彼女はほとんど、病院に一人で療養している。病室の整理をする。人形を燃やす。焼却場に持っていったら「もったいないな。亡くなった方でもおるのか」と係りのおじさんが訊いた。「これから亡くなるところなの」と答える。ミコは高い排煙の煙突を見上げ「おじさん、みんな煙になってしまうんやね」。たった一つ残る目がかすんできた。たびたび目の裏に激痛が襲う。廊下で倒れる。昭和38年8月7日。小島道子没。21歳。合掌▼ミコを化け物呼ばわりした中年の女がいました。自分の身内の病人をほったらかしにし、そのくせ皆に親切にするミコが気に入らない。この病棟に出入りするなとすごみ、ガーゼを引き剥がす。「化け物!」この役が初井言栄です。たったワンシーンですが「呪われた女」として登場。エクソシストも逃げる見事な演技でした。吉永はどうしてもミコをやりたいと日活に頼み込んだ。撮影中西脇市の小島宅を訪問し、家族に請われ、亡き道子さんの着物に袖を通し、一日だけの身代わりを務めたそうです。

 

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