女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

特集「昭和のスター列伝」

2017年11月27日

特集「昭和のスター列伝2」吉永小百合⑧
おはん(1984年 文芸映画)

Pocket
LINEで送る

監督 市川崑

出演 吉永小百合/石坂浩二/大原麗子

シネマ365日 No.2312

あっぱれな女 

20-24‗昭和のスター列伝2-2

オープニングに流れる五木ひろしの主題歌。「女、女、わたしは女、死んでもあなたに尽くしたい」…絶句した。市川崑らしい緻密な検証で、古い日本家屋の家並み、瓦が波うち隣家との仕切りもあるかないか、そんなみすぼらしい家から、わずかな家財道具を荷車に積んだおはん(吉永小百合)が、夫幸吉(石坂浩二)と別れる。夫に女ができ、おはんの実家が別れろといい、迎えに来たのだ。おはんは、他に女がいても幸吉が好きらしい。幸吉は「実家が娘を呼び返すのも無理ない。せやけど、お前は俺の女房や。そう思てるで」と虫のいいことを言う。おはんは何もいわず、ひたすら俯いて別れに耐える。吉永がわずかに上向けた目のネットリ感にはドキッとするものがあります。7年後、幸吉は偶然町で見かけたおはんの後を追いかけ、懐かしげに話しかけ、かきくどくように、古物商をやっているから店に遊びに来てくれという。やさしく、さわりのいい男なのだ▼彼が一緒になった女性は芸者置屋「梅ヶ枝」を営むおかよである。朝からキリキリとたち働き、若い芸者二人に稽古をつけ、稼ぎのない幸吉に嫌な顔一つしない、どころか飼い殺しにしておきたいのだ。幸吉はしっかり者のおかよに惚れられ、尽くし型のおはんに想われるけっこうな男だ。優柔不断で女を二股かけている男のどこがいいのかと思うが、原作(宇野千代)の力なのか、演じる石坂浩二の持ち味か、好き嫌いはさておき、こんなナマコみたいな男が世間にはいるのだと妙に納得してしまうのである。幸吉とおはんが出会ったのは夏だった。うっすら汗ばんだ吉永の白い首が色めいていて、幸吉はたちまちその気になっている。秋になりおはんが店に来た。幸吉が店先を借りている大家がミヤコ蝶々である。劇中「おばはん」としか呼ばれないが、蝶々が本作のキーマンを演じる。男女の馴れ合いをイヤというほど知っているこの世古ふりた初老の女性は、委細のみこみ二人の逢いびきを助ける。逢瀬を重ね幸吉もおはんも離れられなくなり、一緒に暮らす家を蝶々に探してもらう。幸吉はもちろん息を呑むようなズウズウしさだが、おはんも「こうして会えるだけでも嬉しいのに、一緒に暮らす家なんて」と声がかすれ、抱き合う。(あっ、そ)としか言えない▼幸吉はおはんに、おかよも承知の上だと真っ赤な嘘をつく。おはんは安心して引っ越してくる。一人息子がいた。幸吉の子だ。この子が大雨の日、崖から落ちて死ぬ。同時に幸吉が元妻とよりを戻したことをおかよが知る。怪我をしておはんの実家にいる幸吉をおかよは迎えに行く。このときの大原麗子がいい。「おかよでございます。このたびはお力落としでございましょう」と、まず子を亡くした母をいたわり「何も知りまへなんだ。トンマな話やけど、そら、もと夫婦やもの、色街の女に迷った亭主が戻ってきただけやけど、私は、男に愛しいと思われたらそれでええとおもて7年来ました。絆は深いもんがあると思います。男に寄りかかってマンマ食べさせてもろうたこと、ありまへんのやけどな」。おはんがこう受ける。この映画はここで決まったようなものである。「もとはといえば我が身愛しの浅い心が、いかんかったと悔いています。どうぞ堪忍してくださいませ」恨みも嘆きも言わず身を引くおはんに、おかよは心の中がピカッとしている女を感じる。弱い女にこの心映えはない。宇野千代は、弱く従順に見えながらそれだけでない「あっぱれな女」を造型したのである▼幸吉に宛てたおはんの手紙。「ひとつ家に暮らしはせんでも、一緒よりなお、あなた様に愛しいと思われていたのではと思えました。先の世の約束事として、この小さな町を離れてもええように思います」。小さな駅におはんがいたことを幸吉は人づてに聞いた。吉永小百合。石坂浩二、大原麗子の三人が与える、役者の充実感に圧倒されました。

 

Pocket
LINEで送る