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特集「美しい虚無-妄想映画の魅力」

2017年12月9日

特集「美しい虚無=妄想映画の魅力6」①
シークレット・オブ・モンスター (2016年ミステリー映画)

監督 ブラディ・コーベット

出演 ベレニス・ベジョ/ステーシー・マーティン/ロバート・パティンソン

シネマ365日 No.2324

どこがモンスター? 

9-18_美しい虚無6-1

ラストのオチははっきりしているし、妄想映画というのではないのですけどね、ブラディ・コーペット監督の軸足が、どっちかというとラース・フォン・トリアーやミヒャエル・ハネケ寄りですから。彼自身インタビューで、このふたりの作品が理解しやすいといっています。ゴシックホラーみたいな暗い出だしで、何が起こるのだろうと期待させます。でもそのあと子供が教会で村人に石をぶつけたとか、部屋にこもって出てこないとか、父親のいう通り「たかが子供のやることでいちいち振り回されてどうする」という世界なのです。モンスターとか、独裁者とか、全く関係ない。ないと片付けたほうがわかりやすい。父親も母親も信用できない息子が「祈りなんか信じない」と叫ぶのも至極もっともです。主人公のプレスコットはカンの強い敏感な子でして、自分と両親、特に母親との間には何かあると感じています▼母親(ベレニス・ベジョ)は信仰心の厚い女性。第一次世界大戦の戦後処理にアメリカから来た高級官僚の父親は、妻の信仰心が行き過ぎだと腹の中で思っている。息子はハッキリ、母親の信仰は何かを糊塗するためのインチキだと見破っている。父親の友人チャールズ(ロバート・パティソン)と母親が特に仲がいいのも気にいらない。息子は父親が美しい家庭教師のアデレイド(ステイシー・マーティン)と母親の留守に立ち話をしているだけで、何を話していたのと聞くし、母親には「みんなより僕が好き?」と何度も念をおす。「みんな」とは教会に集まる村人や神父だ。彼らのいうことをききなさいと母親のいうのが気に入らない。自分を愛していないから、人に押し付けているのではないかと疑う。というより、母親の気持ちが自分に向いていないことを知っている。事実その通りなのです。息子がいくら注意を引こうとしても母親はかまってくれない。部屋に籠城しても「放っておきなさい。空腹になれば出てくるわ」と覚めている▼でも乳母のモナは違う。古くからこの屋敷に勤める年取った料理人は、子供がお腹をすかしているだろうと、母親に隠れて食べ物を運んでくれる。「どうしたの、その顔は?」と怪我のあとを心配する。眠るときはやさしくキスしてくれる。母親はお義理である。父親は仕事の忙しさにかまけてほとんど家にいない。家は母親が仕切っている。「ライオンとネズミ」の童話を読んでくれる母親の薄いブラウスから乳房が見える。年頃らしく興味津々だ。モナの豊かな胸に触ったら「まッ」といって笑われた。アデレイドの胸に触ると「謝りなさい」と怖い顔をした。母親の情が薄くてねじくれてしまった子供だ。彼が後年独裁者になるらしいが、この時代の独裁者といえばヒトラーかムッソリーニだろう。でも監督は特例の誰かではないとしている▼モナが母親に隠れて食事を運んでいるのがバレ解雇された。モナは「残りの人生を、ご一家を破滅させるために捧げます」恐ろしいことを言い残して去る。息子は泣き叫んで悲しむ。アデレイドのフランス語の授業の日、息子は「三日後にきて」と授業を拒否する。母親に伝えると「じゃ、三日後に」とこれまた冷静。三日後に息子は流暢にフランス語を朗読し「僕一人で勉強したい」よってアデレイドは必要ない。「何か心当たりはある?」と母親。暗に夫との仲をほのめかしているのだ。アデレイドもクビ。小切手を切りながら母親がいうには「結婚に興味なかった。子供も欲しくなかった。ニューヨークにいたとき夫に出会い求婚され、何度も断ったが彼は諦めなかった。仕方なく結婚した。アデレイド、あなたは教師になるのが夢? 結婚や子供は望まないの?」。アデライドは頷く。「ではこれを」母親は小切手を渡して終わり。母親は息子の部屋に来て「一人で何をしているの。次の世話係りが来るまで私と付き合うしかないわ」「いいよ」「私たち、友だちになれるわね。明日は散歩する?」「雨だよ」覚めた母親と可愛げのない息子の会話だ。息子は母親が自分を愛していないことを感じ取っている。母親は息子がそれを知っていることがわかっている。父親がベッドに来て「もう一人子どもをつくろう。君に似た娘が欲しい」母親は応じない。息子がひとつもなつかないから、父親は自分に似た子供が欲しいのだ。つまり父親も母親の秘密を知っている▼ラストで母親が息子に叫ぶ。「プレスコット、この私生児!」。時代は現代に。ロバート・パティンソンがプレスコットとして登場する。彼がホントの父親なのね。欲しくなかった子供に愛情が持てなかった母、自分の子ではないと感付いている父。二重、三重の暗闘の中で子供は育つから、ま、ネジくれてしまうのはわかるけど、どこがモンスターなのよ。こういう家庭、世間によくあるけどそのたび独裁者がうようよ出現したのではないでしょうが。一家を破滅させるといったモナはその後ウンでもなければスンでもない。つまらない。こんな単純なストーリーを、意味ありげに作った監督のセンスはかなり独特ね。ジョナサン・デミは本作を見て震撼したといったらしいわ…サービス過剰よ。まあいいけど。監督はこのとき26歳だった。次はルーニー・マーラ主演でホップミュージックをテーマに撮るらしい。ルーニーですって。よく似たふたりのキャラに期待するわ(笑)。