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特集「美しい虚無-妄想映画の魅力」

2017年12月10日

特集「美しい虚無=妄想映画の魅力6」②
パーフェクトマン 完全犯罪 (2017年犯罪映画)

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監督 ヤン・ゴズラン

出演 ピエール・ニネ

シネマ365日 No.2325

虚栄という妄想 

9-18_美しい虚無6-1

ピエール・ニネ出演だから見た映画。人工的なまでに整った顔が冷たい。でも綺麗だわね。イヴ・サンローランを演じたふたりの俳優では、どっちか言うとギャスパー・ウリエルに軍配を上げたけど、ニネもよかったのよ。ただ線が細すぎて、例えば同じ美貌でもアラン・ドロンみたいな毒気がないのよね。悪の限りを尽くしても女がポワ〜ンとしてしまうという。ニネの「弱点」というのが適切かどうかわかりませんが、彼のよさが裏目に出た映画だと思います。だってひとつも完全犯罪ではないし、そんなことできる男にはなってないのだもの。物語は「贋作もの」のパターン通り進みます。運搬会社に勤めるマシュー(ピエール・ニネ)は作家修業中です。アパートの壁に「一日2500語書け」というスティーブン・キングの言葉が貼ってある。真面目な青年なのね。夜更けまで熱心にパソコンを叩いている。出版社に作品を送ったが、「採用できません」という冷たい返事ばかりがくる▼孤独死した男性の、遺品整理に行った部屋で分厚いノートを見つける。戦争の実体験を書き綴ったものだ。パラパラ読んだマシューは迫力に驚き、ノートを持って帰る。そして猛烈にパソコンを撃ちまくるのだ。作品は出版社から好意的に迎えられ、独占契約、たちまちベストセラー作家となり、富も名声も手に入れた。美しい恋人も、彼女は妻となりセレブの実家もマシューを温かく迎え入れた。幸福の絶頂だった。でも出版社からの電話は、「君の前借りが多額になってこれ以上は出せない。それに次の作品はいつできる、この3年間、一行も送ってこないじゃないか」これはいかんですわ(笑)。約束は守らねば。しかも3年間前借りのしっぱなしなんて、出版社も甘いわね。自分の才能では一行も書けないってことね。幸い妻の実家がセレブで、マシューはしっかり「マスオさん」なのだから、ありていに事実をいって「すみません、僕が馬鹿でした」といえば、誰も警察に突き出すようなことはしないでしょうよ。そうそ。子供も生まれるのよ▼でもマシューは虚栄という妄想に取り込まれ、無限の虚無地獄にはまり込んでいく。このあたり、ニネの線の細さ、繊細さがぴったりです。彼の肉体が筋肉隆々だとこうはならない。サイン会に「盗作をばらすぞ、代償を払え」という妙なおじさんが現れる。マシューは生きた心地がしません。次から次、嘘を重ね、その場をごまかし、とうとう殺人に至る。これもいけませんわ。だから見ていて、どうもマシューに感情移入しにくいのよ。ニネが適役なだけに、強引に居直る性格に設定するのも似合わないしね。車の事故を偽装し、思いつく限りの嘘ごまかしをやるのだけど、もともと根っからの悪人じゃない、どころか気の弱い文学青年でしょう。サクセス欲しさに魔が差したけど、人はガラに合わないこと、やるものじゃないのよ▼言うなればマシューは自分の贋作が、幸福な一家を不幸につきおとしたことを悔やみ、行方をくらます。一目散に現実からの逃走です。人生を歪ませてしまったのは自分自身だからどんな結末になろうと自業自得だけど、でも同情する前に、あなた、何やらせても幼稚ねえ〜と思ってしまうのが辛いわ。ニネと同じタイプの俳優にアンソニー・パーキンスがいました。繊細、長身痩躯、小さな顔に少年のような含羞をにじませる。「サイコ」でしか彼を知らないのはもったいないような俳優です。ニネを見ながらパーキンスを思い出したのだけど、いちばん違うところは、喜んで狂気に徹する、パーキンスはそういう役を選んでいたわけね。例えば「クライム・オブ・パッション」は監督ケン・ラッセル、共演キャスリン・ターナーという、聞いただけでただでは収まらない、狂気の風を告げています。パーキンスは大真面目の皮を被ったエロ牧師。彼がやるとコメディではない、あえて言うと非道なまでの嘲笑を呼び起こす、とても強靭な役者でした。

 

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