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特集「美しい虚無-妄想映画の魅力」

2017年12月13日

特集「美しい虚無=妄想映画の魅力6」⑤
エンゼル・ハート (1987年ミステリー映画)

監督 アラン・パーカー

出演 ミッキー・ローク/ロバート・デ・ニーロ/シャーロット・ランプリング

シネマ365日 No.2328

丸め込まれる 

9-18_美しい虚無6-1

30年前のこの作品が今見ても新鮮で、飽くことのない映画の企みに満ちていることに敬服します。ミッキー・ロークやロバート・デ・ニーロ、あるいはシャーロット・ランプリングの、出番の少ないもったいない使い方とか、俳優力によるところも大きいのですが、誰も出演していないシーンの映像の語りが実に新しい。街路でタップを踊る黒人少年数人の足、黒いフードを被った人物が、うずくまるように座っている謎めいた登場のさせ方、この黒い影は何度か現れ、そのたび主人公ハリー(ミッキー・ローク)を、というより観客を闇に引きずり込むのです。「自分落ち」映画の代表作ですが、そこに至るまでの迷路で、私たちは小突き回されながらも、しっかりした映画の興奮を味わう。いきなり行われるシーンの転換も、多分これには何か重大な意味があるのだと、すっかり丸め込まれてしまうのです▼1955年、場所はニューヨーク、廃墟のような裏町。しがない私立探偵、ハリー・エンゼルはルイ・サイファー(ロバート・デ・ニーロ)と名乗る紳士から人探しを頼まれる。ジョニーという人物が生きているか死んでいるのか、確かめたい、ジョニーは1943年戦争で北アフリカに派遣され重傷を負い、記憶喪失で戻り植物人間となった。ハーベスト記念病院に入院したはずだ…そう聞いてハリーは足取りを追う。ジョニーは43年12月に転院していた。ジョニーは顔をひどく損傷し、整形した。包帯を巻いたジョニーを連れて行ったのは、ケリーという男と車にいた若い女だ。ジョニーの担当医だったファウラー医師と合うが、彼は麻薬中毒で、ハリーが食事に出た隙に右目を撃ち抜かれて死んでいた。極秘のうちに退院したジョニーの痕跡を、ハリーが掴みそうになると、彼らは殺されてしまう。自分が容疑者になるから降りるとハリーはサイファーにいうが、5000ドルの手附金につられて捜索を続行する▼舞台はルイジアナに変わる。ジョニーを連れ出した若い女はマーガレット(シャーロット・ランプリング)という占い師だ。彼女も心臓をえぐられて死ぬ。ジョニーは戦前の人気歌手だった。彼が属していたバンドのギタリスト、トゥーツに会った。手がかりの糸を探り、ブードゥー教の秘密の儀式や巫女に出会う。マーガレットの父親イーサンはジョニーもマーガレットもトゥーツも悪魔教の信者であり、ジョニーはスターになるため悪魔に身売りしたことを教える。しかし悪魔から逃れるため、若い兵士ハリーを生贄とし、魂をすり替えた。ジョニーとハリーは同一人物。一旦契約した悪魔との約束をジョニーが反故にしたことから、悪魔はジョニーに加担した、けしからん連中を殺していったわけ。ルイ・サイファーの正体はルシファー、彼が悪魔です。粗筋で説明しても一つも面白くない映画ですからこの辺にしますが、悪魔と契約して飛躍を図る人間。そこから足抜けしようとしても、一旦捉えた獲物は絶対に逃さない悪魔界の掟。記憶喪失とか顔の整形とか、ジョニーの素性をうまく消し去る条件を加味して、ミステリーは深みを増しています。平たくいうと、悪魔を怒らせたために思い知らされる人間たちの劇です。ハリーは連続殺人犯の犯人として死刑は間違いない。ルシファーはハリーの孫に憑依し、警官に連行されるハリーを、悪魔独特の金色の目で見つめる。ハリーはそれに「地獄で会おう」と答える。だいたい悪魔なんかいるはずないのに、と思うとこの映画は成り立ちません。それよりも現実と妄想を往来するハリーに成り代わり、悪魔との道行を追うほうが、元が取れます。アラン・パーカー監督の綿密な構成とスタイリッシュな映像感覚が、ハリー・エンゼルに生きいきした現実の肉体を与え、それを演じたミッキー・ロークは最高でした。同じハンサムなミッキー・ロークでも「ナイン・ハーフ」の主人公は気色悪い変態に過ぎない。本作では顔もスタイルも一挙手一投足に男の色気と体臭をにじませています。