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特集「美しい虚無-妄想映画の魅力」

2017年12月14日

特集「美しい虚無=妄想映画の魅力6」⑥
ハルク (2003年ファンタジー映画)

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監督 アン・リー

出演 エリック・バナ/ジェニファー・コネリー

シネマ365日 No.2329

ハルクの「あわれ」 

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アン・リーはハリウッドに東洋哲学、といって大げさなら、「もののあわれ」を持ち込んだ初めての監督ではないかと、密かに思っている。彼のその無常観は緑色でもって出現することが多い。緑は彼の内的観想を表す色なのだ。「グリーン・デステニー」はそのものズバリ、緑であるし、「ハルク」は緑のモンスターだ。「ブロークバック・マウンテン」の人間を拒否した奥深いロッキーの山々。この場合の山はゲイの二人の哀しみの象徴ではないか。ならば「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」はどうだ、あれの舞台は海ではないかとおっしゃるかもしれないが、劇中、猛々しいまでに変化する食中植物は緑だった。ここぞ、というキー・ポイントに緑は用いられる。本作だって、ハルクは赤でもピンクでもいいはずなのに、監督は緑にこだわる。彼の脳内では、本来平和と繁栄の象徴であるグリーンが、なぜか虚無と妄想の色として現れるのだ▼「ハルク」は遺伝子科学者ブルース(エリック・バナ)が、実験中ガンマを大量に浴びた。奇跡的に無事だったが、死んだと思っていた彼の父デイヴィッドが姿を現した。過去にデイヴィッドは自らを実験台とし、遺伝子操作の実験を行い、特殊遺伝子が息子のブルースにも受け継がれていた。怒りによってパワーを強大化させるその遺伝子は、ブルースを巨大な緑色のモンスターに変身させる。言うなれば人間ゴジラのような存在です。意図せず怪物となり、醜い容貌で筋肉ムキムキ、バカ力を振るい、建物も道路も道もボコボコにして、彼を捕獲しようとする軍のヘリコプターや戦車の銃弾を跳ね返し、ノンストップで暴れまわる。ブルースの意識がなくなっているから、彼を抑制するものは何もない、破壊あるのみである。ハルクは自分のせいではないのに、忌み嫌われ、醜い外見を与えられてしまったのだ。大空に向かって咆哮するハルクは、どこかあわれで物悲しい▼ブルースの元恋人ベティがジェニファー・コネリーです。この人、端正な容貌でホラーや怪奇モノに縁があるのよ。ダリオ・アルジェント監督の「フェノミナ」に臆せず出演するなんて、いい度胸だわ。昆虫と交信するヒロインはまだしも、あの映画の主役は「ウジムシ」じゃない? それにデヴィッド・ボウイと喜々として参加した「ラビリンス/魔王の迷宮」は、マグリッドのシュルレアリスムの世界ね。「レクイエム・フォー・ドリーム」では、ダーレン・アロノフスキー監督が、うんざりするほど破滅の人生を突きつけてくれた映画にジェニファーは主演、ダーレンと気が合うらしく「ノア 約束の舟」に再び出演。綺麗な顔で、怖い映画よく出る女優さんです。本作では情け容赦なくブルースを殺そうとする軍人の父親に抵抗し、彼が人間であることを信じ、救おうとする。本作はコミックが原作ですから、荒唐無稽な点は多々あるのですが、ハルクの「あわれ」は一貫しています。モンスターになったのは人間のせい、その人間が無責任にハルクを殺そうとする。ハルクと父デイヴィッドは、最終兵器を撃ち込まれ炎となって壊滅します。でもラストではハルクはアマゾンかどこかの密林で生き残り(ここでも緑です)、現地人と交流しています。怒りを覚えると緑色に変身する属性は元のままです。だからいずれ悲劇は繰り返される予感があります▼ハルクの暴力性は、どこにも受け皿がないわけよね。人間社会に害を及ぼす怪物なのだから生きていけないの、仕方ないじゃないかと言わんばかりのこの作り方。問題じゃないの? フランケンシュタインでも、そうだったけど怪物を作るだけ作ってあとは「知らん」北極にでも南極にでもいってくれってとこに限界を感じるわ。日本の「ガメラ」はロケットに乗せられ、宇宙空間に飛んで行ったけど。モンスターは作りました、どうしようもないから殺しました、追放しました、それ以外の、花も実もある着地点を誰か、考えた人はいなかったの?

 

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