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特集「美しい虚無-妄想映画の魅力」

2017年12月15日

特集「美しい虚無=妄想映画の魅力6」⑦
ハイヒールを履いた女 (2012年サスペンス映画)

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監督 バーナビー・サウスコーム

出演 シャーロット・ランプリング/ガブリエル・バーンズ

シネマ365日 No.2330

感情の閃き 

9-18_美しい虚無6-2

バーナビー・サウスコーム監督が母親のシャーロット・ランプリングを主演に撮った映画。もともと謎めいているランプリングが、殺人者を演じます。バーニー刑事がガブリエル・バーンズ。原題は「わたし、アンナ」。アンナがランプリングです。妄想落ちの典型的な映画です。アンナは離婚によって今は一人住まい。娘のエミーと孫がいることと、二人の訪問が楽しみだった。しかし孫を事故で失ってから、娘も離れていった。アンナは頻繁に公衆電話から別れた夫、娘に電話し、明るく振る舞う。そして家には孫の部屋を用意し、あたかも孫と娘が同居しているように暮らすのだ。どこまで正気か、映画ははっきり描かないけど、完全な妄想です。アンナは婚活パーティに参加し、古狐のようなやり手ババから「男を喜ばす方法」などを聞き、動揺して「幸せな結婚生活」を装うが、古狐は鼻で笑う▼パーティで出会ったジョージと彼の部屋に行き、古狐のいった「喜ばす方法」をやるのだけど、うまくいかず男を怒らせ、アンナは男を刺殺する。部屋から出たときは夜明けの5時だ。駐車場に向かう途中男とすれ違う。これがバーニー刑事。男の死体があると一報を受け、現場に到着したところ。場所はロンドン。高層マンションが立ち並ぶ。バーニー刑事は妻と別居中。アンナに惹かれデートするようになる。でもどこまでアンナが正気か、どこまで精神を病んでいるのかわからない。映画の雰囲気はいいのだけど、折り目筋目がよくわからなくて、結局は単純な妄想落ちになってしまった。登場人物は少ないし、主役は二人、どう考えても本格謎解きではない内容を、最後まで引っ張っていったのには敬服するけど、そのほとんどはランプリングの一人芝居みたいなものね▼ランプリングはなんでこう「夢もの、妄想もの」に強いのか。「スイミングプール」。あれもどこまで正味の登場人物か、最後までわからなかった。監督のフランソワ・オゾンが得意とする幻想ものだけど、オゾンは持ち前のずる賢さ、と言って悪ければファンタジーな作劇で、緊張の糸をピーンと張り詰めさせていた。「まぼろし」なんかタイトル通り、まぼろしだった。「17歳」だって、ヒロインが劇中自分で自分の幻想を見る。オゾンは心とか精神とか、本来形のないもの、不可視なものに映像という形を与えようとすれば、妄想という手段を取るしかない、と固く誓っているのね。それがランプリングの一見「不可解な女」像と呼応するのよ。ランプリングが誰も真似できない演技ができるのはなぜか、演技じゃなくて彼女の「地」だからよ。とっつきが悪くて、つっけんどんで、可愛らしくもやさしくもない女。セクシーで気になる女だけど、踏み込むのはためらってしまう、そんなビッチを演じたら天下一品ね。この映画が物足りないのは、ランプリングがビッチでなく精神を病んだ病人だったからよ。病気になるようなタマだろうか。でもときどきランプリング独特の、爬虫類のような感情のない目に閃きが奔る、鋭い視線があった。彼女はこのとき66歳だった。変わっていないなと思った。2017年ベネチア映画祭最優秀女優賞受賞。

 

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