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特集「銀幕のアーティスト」

2017年12月30日

特集「銀幕のアーティスト7」⑦
放浪の画家ピロスマニ(2015年 伝記映画)

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監督 ゲオルギー・シェンゲラーヤ

出演 アフタンジル・ワラジ/アッラ・ミンチン

シネマ365日 No.2345

青いキリン 

銀幕のアーティスト6-1

ニカラ・ピロスマニの絵そのもののような映画です。彼の絵が好きで、好きでたまらない、という監督の気持ちが、名を知られることもなく清貧のうちに死んだ、画家の半生と絵を、詩のような映像に仕上げました。映画は37年ぶりに再上映される作品です。グルジア(ジョージア)といっても、どこにある国かほとんど知られていないと思います。南コーカサスにある共和国でソ連の構成国でしたが1991年独立しました。コーカサス山脈の南麓、黒海の東に位置します。南側にトルコ、アルメニア、アゼルバイジャンと隣接し、ワインの産地としても知られます。幼い頃両親を亡くしたニカラ(アフタンジル・ワラジ)は、ある日、育ててくれていた家族の娘にラブレターを書いた、キスまでしたと大騒動になり、じゃ街へ出て行くわ、と家を出る。鉄道員をしたり、友人と乳製品の店を開いたりするが、もともと商売とかお金を稼ぐことに関心がなく、姉が住んでいる故郷ミルザニアで結婚を勧められるが、見合いの当日、逃げるように帰ってしまう▼それからは小さな絵の具箱を抱え、街のあちこちの居酒屋で絵を描かせてもらい、パンやワインを買えるわずかな金を稼ぐ。いつも一人だ。居酒屋で一緒に飲もうと声をかけられても、す〜と席を立って店を出る。人付き合いが苦手で、喋るのも下手だ。でも自分を安売りしたり媚びたりしないニカラには、どことなく威厳と風格があって、街の人は彼を伯爵と呼んだ。パリから来た女優のマルガリータ(アッラ・ミンチン)にニカラは恋をする。報われない片想いだ。このエピソードが「百万本のバラ」となった。チフリスの街にやってきた若い芸術家二人が、酒場の壁にかかっていた絵に目を留めた。誰が描いたのだと主人に訊く。ニカラの絵が最初に注目された作品は「青いキリン」である。ニカラは動物が好きだった。シカやトリ、ウシやウマを好んで描いた。童話のような温かい丸みを帯びた形象で、どこか謎めいている。酒場も、人物もなんでも書いたが、最初に見た「青いキリン」は一度見たら忘れがたい幻想的な絵だ。この絵一点しか知らなくても、ニカラ・ピロスマニが大好きになったと思う▼彼の絵は中央に紹介され、俄然脚光を浴びるが、人前で挨拶するのも苦手だ。朴訥な口調で「木の家を建ててみんなで絵を語り合いましょう」。でも批評家は独学のニカラに辛辣だった。基本ができていない、稚拙だと一刀両断、ちやほやしていた人たちも壁からニカラの絵を外し、知らん顔をする。「何が気にいらないのだ。最初にもてはやしたのは奴らのほうだ。僕は今まで通り描くだけさ。手本なんか必要ない。心に閃くままだ」それからはでもイバラの道だった。建物の階段の下の物置でニカラは寝起きする。ある日、ニカラの絵を認めた若い絵描きの一人がニカラを訪ね、仲間たちの志だと、いくばくかの現金を置いた。ニカラは言う「情けないことだ。みなの前で持ち上げられ、からかわれていたのだ。でも恨んでいないよ。お互い画家として好きな絵を描くだけさ」▼復活祭が近づいた。ニカラに絵を描かせようと誰かがいい、ニカラが元住んでいた、今は空き家になった家に連れて行き、三日で描けという。「手が動かない」「三日あれば充分間に合うだろ」。復活祭当日、村中が祭りで騒いでいる。「そうだ、ニカラを忘れていた」家に行くと長さ4、5メートル、高さほぼ1メートルの長方形の板に、グルジアの平原と点在する農家、放牧の牛や動物、どこまでも続く緑の丘、そこを吹き抜ける風までも…疑いようのない故国グルジアの風景が描かれていた。この絵は圧巻です。ニカラは村を去る。1918年失意のうちに死ぬ。56歳。彼の絵は愉しい。ワインを飲むヒゲの壮年の男たち。舞台の青い背景に立つ健康な踊り子(モデルはマーガレット)、白い牛、青いキリン、丸々したやさしいシカ、黒い影のようなワシ、こんな絵が描ければもうどこで死のうと充分だろう。彼の作品は1000〜2000点あると言われる。死後彼を支持する画家たちによって収集され、約200点がトビリシの国立美術館に保存されています。

 

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