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特集「新春ベストコレクション」

2018年1月8日

特集「新春ベストコレクション」①
午後8時の訪問者(2017年 ヒューマン映画)

監督 ダルデンヌ兄弟

出演 アデル・エネル

シネマ365日 No.2354

扉を開く人

新春ベストコレクション

ダルデンヌ兄弟らしい、しみじみといい映画でした。ヒロインの女医ジェニーになったアデル・エネルは「水の中のつぼみ」の女子高生ね。175センチですって。まあ、大きくなったわね。ジェニーは、知人の老医師の診療所の代診だ。もっと大きな病院に行く予定だ。ある夜ドアベルが鳴った。診療時間は1時間も過ぎていた。研修医のジュリアンが応じようとしたがジェニーは止める。翌日診療所の近くの川で身元不明の少女の遺体が発見された。警察が調べた監視カメラに、午後8時すぎ診療所のドアホンを押す少女の姿があった。少女は身元不明のまま埋葬された。ジェニーは自分がドアを開けていたら少女は助かったかもしれないと、良心の呵責にさいなまれる。ダルデンヌ兄弟は自作についてこう語っています。「描きたかったのは償いたいと願う人間の存在です。ジェニーの意志を、映画を通して描いています。扉を叩く相手がホームレスでも、悪臭を放っていても、みすぼらしくても扉は必ず開けるべきだという話です。相手は仮の姿をした神で、他人に責任を持ち、他人が死にそうなときに手を貸せるかどうかを確かめに来ているのです」▼この明晰な解説に付け加えるべきものは何もないから、ジェニーの行動だけを追っていこう。ジェニーは遺体を確認した後少女の写真を持ち歩き、目撃情報を追う途中で、脅されたり、襲われたりする。少女は娼婦で移民だった。警察から名前がわかったと知らせがあった。セレナ・エヌドング。彼女をめぐってジェニーの患者やその父親の、人に言いたくない所業が明らかになってくる。研修医のジュリアンはジェニーから「患者に振り回されないで」と注意を受け、ドアを開けなかったジェニーに失望した。彼は医師になるのをやめ田舎に帰ると決める。ジュリアンには父親から受けた幼児虐待のトラウマがあった。ジェニーは田舎のジュリアンの実家まで訪ね、もう少しで医師試験に受かる、あなたはいい医師になれると励ます。ジュリアンが研修医としてみていたのは自分の背中だった。自分はそれにふさわしかったか。ジェニーは思う。「セレナの声がする。彼女は私の中で、良心の呵責の中で生きている」ジェニーは自費で少女の墓を建てる▼ある日黒人女性が診療所を訪ねてきた。「警察に行く前に先生にお礼をいいたくて。あれは妹なのです。妹に売春させないでと男に頼むこともできたのにしなかった。妹への嫉妬からです。3人で暮らすうち男の関心は妹に移った。妹が失踪してホッとしたのです。妹は今どこに?」「市営墓地に埋葬されています」「ありがとう」。涙ぐむ姉にジェニーが訊く「抱きしめてもいい?」。ジェニーは大病院への就職を断り、老医師の診療所を継ぐと決める。患者は貧しい裏町の人々。移民や家出人、ケンカの怪我人、クスリの中毒もいる。診療所を付き添いもなく、ヨボヨボと出て行こうとする高齢女性に「腕を」とジェニーは差し出す。「ありがとう」。ジュリアンから留守電が入っていた。医師になることに決め、勉強を再開したと▼他のダンデルヌ兄弟の映画と同じく、本作にも音楽は使われていません。「音楽の場所がないのです。沈黙が音楽です。もしくは体から出る呼吸音や摩擦音がいい音楽です。医師であるジェニーは患者の音に耳を傾けます。これは聴く映画だといってもいい。移民の女性が死亡するのは、多くの移民がボートでアフリカから出てボートが沈没して地中海で命を落とす。ジェニーが移民の彼女に対してドアを開けないのは、ヨーロッパが移民に対して扉を開けないのと同じです」。私たちの心を確かめにきた神が、扉を開く人が誰か見ている。