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特集「新春ベストコレクション」

2018年1月10日

特集「新春ベストコレクション」③
湿地(2006年 日本未公開)

監督 バルタザール・コルマウクル

出演 イングヴァール・E・シーグルソン

シネマ365日 No.2356

遺伝病の行方 

新春ベストコレクション

製作から10年以上もたってDVDになりました。北欧ミステリーの勢いが俄然よくなっているからでしょうね。「特捜部Q」シリーズはハイレベルだし、「ドラゴン・タトゥーの女」はもはや古典だし。ジャケ写なんか「北欧から現れた新たな衝撃作」だって。衝撃作を10年以上も未公開にしておくのか、調子いいこと。でもマ、それなりに期待に応えてくれました。どこの国の映画かというとアイスランドなのです。イギリスの北西にある人口33万人の共和国。この小さな国が世界をリードしているのが遺伝子研究です。国立ヒトゲノム研究所の遺伝的変異プログラム責任者、リサ・ブルックスさんはアイスランドという国の成り立ちそのものが遺伝子研究に最適だった、と言っているから、この映画で「遺伝病」というセリフが出てきたときは、(そうか、得意技でくるか)と思いました▼でも難しい専門のお話じゃなくて、遺伝によって引き起こされた事件と、悲劇的な背景が絡み合ったストーリーです。本作が未公開のままオクラ入りしていたのは、舌を噛みそうな北欧の名前と、登場人物の事実関係の複雑なせいだと思います。一度見ただけでは私のアタマではつかみきれませんでした。苦労したわよ。4歳の少女が病死します。死因は遺伝病の一つ、神経繊維腫症。通常幼い頃に色素や皮膚腫瘍という形で表れると説明がなされる。父エルンは誰からの遺伝なのか、勤務先の遺伝子研究所で調べる。その一方で殺人事件が発生しました。エーレンデュル警部(イングヴァール・E・シーグルソン)が、アイスランドの湿地帯にあるアパートの一室の現場に行くと、我慢できないような悪臭が部屋に満ちていた。沼地に立地しているので、夏は特に臭いがひどいそうだ。被害者はホルベルクという初老の男。一人住まい。机の奥にあった写真には黒い十字架が映っていた▼全編これ暗い映像。寂しげな風景に建物。人影のない道路。殺された男の仲間が二人。この三人組は揃ってクズ男だ。女性を襲ってはレイプし、元刑事が揉み消していた。レイプした女性のうち二人が身ごもり、一人の息子と娘を産んだ。息子がエルンだ。女の子は幼いときに悪性脳腫瘍で死んだ。エルンは母親がレイプされていた事実を知らなかった。しかし遺伝子のデータを調べ上げ、ホルベルクの存在に突き当たる。いろんな人物が相互に関係する構成を簡単に言うと、エルンはホルンベルクが実の父であり、母親のレイプ犯だと知って撲殺し、自殺します。部屋の悪臭は湿地であるだけが理由ではなく、三人組の一人をホルンベルクが殺し、床下に埋めていたからです。こういう、本筋に関係ない殺人が話をややこしくさせています。もう一つの物語は警部と娘でして、娘はどこかの男の子を妊娠した。中絶したいから金をくれと父親にいってくる。母親は早く死んで、警部は男手で娘を育てたのに、娘はなついていない。でも警部はいい父親で、呑んだくれ、ぶっ倒れている娘を抱いて家に連れて帰り、やさしい言葉こそかけないが、大丈夫なのを見届けて朝早く仕事に行く。スーパーヒーローではありませんが、現場百回、たたき上げの警察官らしい地道な捜査で真相に迫ります▼秘密を抱えた母親と遺伝病を追う息子、警官の父親と妊娠した娘、娘を失った若い父。本来ならそれぞれの悲しみがしみじみと胸に迫ってくる映画になると思うのに、謎解きと説明をたどるのに追われて(それどころじゃない)という感じになったのが残念だけど、最後まで(尻尾をつかませてやらんぞ)という惑わし方というか、振り回し方に一票。