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特集「新春ベストコレクション」

2018年1月18日

特集「新春ベストコレクション」⑪
愛しすぎた男 37年の疑惑(下)(2014年 劇場未公開)

監督 アンドレ・テシネ

出演 カトリーヌ・ドヌーヴ/ギョーム・カネ/アデル・エネル

シネマ365日 No.2364

ドヌーヴの存在

新春ベストコレクション

アニエスの部屋に書き置きがあった。「あなたが自由に飛べるように足枷を外してあげた。私の道はこれで終わり。アニエス」。行方はわからなかった。この前にアニエスは自殺未遂を起こして病院に担ぎ込まれた。母親が駆けつけても看護師は会わせてくれない。娘が会いたくないと言っているのだ。退院して部屋に戻ると植木は全部、無残に枯れている。「合鍵は持っているのになぜ水をやりに来なかったの」。アニエスがモーリスを責める。それが気にいらないとして「謝れ」と男が居丈高に命じる。謝ると「今度は僕を見て笑うのだ」。アニエスが書き置きを残したのはこの後である▼アニエスはクズ男につきまとってどうするつもりだったのか。彼が女といる姿にショックを受けるがモーリスが「恋多き男」だとアリエスは知っていた。女と一緒にいることが、ショックを受けて動揺する新情報だとは思えない。母親の嫌いな娘が社会に溶け込めず、人間関係を円滑に結べない。モーリスはアニエスの金を自分の口座に移し独り占めする。新聞は「カジノの令嬢が失踪」と大きく報じた。モーリスは株の操作と職権乱用罪で、執行猶予付き有罪となった。それから20年。ルネは警察を告訴した。髪は白くなり、歩くには杖がいる。母親は「娘はモーリスに殺されたの。警察が怠慢だから告訴しただけ」しかしもう20年になる。担当者たちは定年退職している。遺体は見つかっていない。「死体隠匿罪で告訴できる。彼はパナマで好き放題しているわ。殺人犯を野放しにはさせない」▼裁判は起こされたが無罪。1年後、ブーシュ・デュ・ローヌ県の重罪院がモーリスを召喚し、殺人罪で懲役20年の有罪判決を下した。さらに2013年、欧州人権裁判所が自由権侵害で仏裁判所を非難した。モーリスは茫然自失「失踪から30年も経つのになぜ再審を。ルネの執念は異常だ」としか言えない。ルネ「私は30年待った。多くの母親が目的を達成するために同じことをするだろう。狭い部屋に住み、何もかも売った」。2014年、3回目の裁判でモーリスは懲役20年の有罪判決を受けた。生きているうちに刑務所から出ることはできないだろう▼娘は殺された。母親はそう信じて疑わない。ルネは自分を責めたに違いない。もし充分な愛情を注ぎ、娘と一緒に暮らしていれば、娘は寂しさから道を過たずにすんだであろう、クズ男の愛情に救いを求めなくてもよかっただろう。ルネにとって失踪は死と同じだった。遺体があろうとなかろうと、娘は自分の前から永遠に姿を消したのである。たとえモーリスが死刑になったとしても、ルネに本懐を遂げた喜びはあっただろうか。悔恨と自責の30年だったにちがいない。落魄のうちに身を置き、目的をまっとうしたにもかかわらず、深い悲しみと悲哀をたたえた母親の姿を、ドヌーヴは存在そのもので表している。